不動産を相続したとき、必ずしも遺産分割によって特定の相続人の単独所有にする必要はありません。共有状態のままにしておく対応も可能です。
しかし不動産を共有にしておくと、将来さまざまなリスクを発生させるのでお勧めではありません。
今回は相続不動産を分けずに共有にするリスクについて、弁護士が解説します。
目次
1.そもそも共有とは
共有とは、1つの物件を複数の人が共同所有する状態です。不動産を相続したとき、特定の承継者(相続人)を決めなければ不動産は共有状態になります。
物件を共有する場合、1人1人の共有者には「共有持分」が認められます。共有持分は物件に対する権利の割合であり、共有持分権者全員の共有持分を合計すると「1」になります。この場合の「1」は「100%」の意味合いです。
たとえば上記の図のように、3人の子どもが不動産を相続すると、それぞれの子どもに「3分の1ずつ」の共有持分が認められ、全員分を足すと1になります。
共有不動産の注意点
共有になると、1人1人の共有持分権者は物件自体を自由に利用・処分できません。
リフォームや抵当権の設定、賃貸、売却などの対応には他の共有者による同意が必要です。
2.相続不動産の共有には2つのパターンがある
相続不動産の共有には、以下の2つのパターンがあります。
2-1.そもそも遺産分割していない
1つ目は、そもそも遺産分割をしないパターンです。遺産分割協議や調停、審判などによって遺産分割をしなければ、不動産は自然に「法定相続人全員の共有状態」になります。この場合の共有持分は「法定相続分とおり」です。
たとえば不動産を3人の子どもが相続すると、相続開始時から遺産分割時までは不動産が当然に「子ども達3人で共有持分3分の1ずつ」の共有状態になります。
遺産分割前の共有状態を解消するには、遺産分割協議や遺産分割調停、審判によって不動産を相続する特定の相続人を取り決める必要があります。
2-2.遺産分割によって共有にする
2つ目は、遺産分割によって不動産をあえて共有状態にするパターンです。
遺産分割をしても、特定の相続人が相続しなければならないわけではありません。「全員の共有状態にする」という遺産分割方法も可能です。
また一部の相続人の共有としてもかまいませんし、共有持分割合も自由に設定できます。
パターン①
たとえば、3人の子どもが不動産を相続したとき、全員が納得すれば「長男と次男の共有とし、それぞれの共有持分割合は2分の1ずつ」としてもかまいません。
パターン②
また、「3人の共有状態とし、長男の持分割合は2分の1、二男と長女はそれぞれ4分の1ずつ」などにもできます。
必要な手続き
いったん遺産分割によって共有状態が確定した場合、共有状態を解消するには「共有物分割請求」という手続きを行わねばなりません。
以上のように、相続不動産の共有状態には「遺産分割未了の場合」と「遺産分割によって共有にした場合」の2パターンがありますので、理解しておきましょう。
3.相続不動産が共有にされやすいケースとは
不動産が共有になりやすいのは、以下のような場合です。
3-1.遺産分割協議をしない
相続が発生しても相続人たちが遺産分割協議をしないケースです。
他の相続人と連絡をとりにくい、話し合いが面倒などの理由で遺産分割協議をせずに放置してしまう、などのパターンが考えられます。
遺産分割協議が行われないと、不動産は法定相続人間で法定相続分に応じた共有状態のままになります。
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3-2.遺産分割協議が決裂した
遺産分割協議を行っても、相続人同士の意見が合致しないケースが多々あります。
協議が決裂したら、不動産の新しい所有者が決まらないので法定相続人による法定相続分に応じた共有状態が続きます。
3-3.誰が相続するか決められないのでとりあえず共有にする
遺産分割協議を行い、一応話し合いはしたけれども最終的に不動産の相続方法について意見が合わないパターンです。
他の遺産については分け方が決まったけれど不動産についてのみ意見が合わない場合、遺産分割協議を決裂させるのはもったいないと考えるでしょう。
そこで不動産については「とりあえず共有」として他の遺産を個別に分配し、遺産分割協議を成立させる、というようなケースです。
4.相続不動産を共有にするリスク
不動産を共有のままにしておくと、以下のようなリスクが発生するので注意してください。
4-1.不動産の活用や処分方法でもめる
共有不動産の場合、共有持分権者1人1人の判断によって自由にその不動産自体を活用、処分できません。
リフォームや賃貸活用、売却などの際に他の相続人の同意が必要です。
相続人間で活用方法や売却などについて意見が割れると、トラブルになってしまいます。
4-2.不動産が放置される
共有不動産を活用するためには、他の相続人と話し合って合意しなければなりません。
話し合うのが面倒な場合や仲が悪い場合、疎遠な場合などには話し合いが行われずに不動産が放置されてしまうケースが多々あります。
4-3.固定資産税や管理費が発生する
共有不動産を放置して何の活用もしていない状態でも、不動産を所有していると毎年「固定資産税」がかかります。
物件を管理するために不動産業者に対応を依頼するケースもあるでしょう。固定資産税や管理費用は相続人が共有持分割合に応じて負担しなければなりません。
通常は共有者のうち誰か1人が代表で支払い、清算するかたちをとります。このとき、きちんと自己負担分の清算に応じない相続人がいてトラブルになるケースが少なくありません。
4-4.共有持分が売却される
あまり知られていない事実ではありますが、不動産の共有持分は売却できます。
たとえば子ども達3人が不動産を相続して3分の1ずつの共有持分を取得したとき、子ども達1人1人は自分の3分の1の持分のみを第三者へ売却できます。
共有持分の売却には、他の共有持分者による承諾も不要です。
共有持分が売却されるとどうなるか
共有持分が売却されると、不動産は持分を買い取った人とのもともとの共有持分権者の共有状態になります。
また共有持分を買い取るのは、たいてい「共有持分買取業者」とよばれる専門の不動産業者であり、一般の個人が共有持分を買い取ることはほぼありません。
相続人の1人が他の相続人の知らない間に共有持分を売却すると、不動産が他の相続人と共有持分買取業者との共有状態となり、他の相続人が驚いて混乱するケースが多々あります。
「なぜ勝手に売ったのか」などと売却した相続人にクレームを述べてトラブルになり、人間関係が壊れてしまうリスクが発生します。
4-5.再度の相続が起こったときに権利関係が複雑になる
不動産を共有状態にすると、現在の共有持分者が死亡して再度の相続が起こったときにトラブルが発生する可能性が高くなります。
共有持分権者が死亡すると、その共有持分は死亡した人の相続人へと相続されます。相続人が複数いたら、共有持分がその複数の相続人に分割承継されて、不動産の所有関係が非常に複雑になってしまうのです。
共有持分権者間でも「誰と共有状態になっているのかがわからない」状態となり、話し合いや共有物分割、活用や売却の対応がますます困難となって放置されざるをえない状況となっていきます。
4-6.不動産はなるべく早く分割する
以上のように不動産を共有のまま放置するとさまざまなトラブルのもとになってしまいます。
できるだけ早く分割するのが賢明といえるでしょう。
5.相続不動産を共有にしても良いケースとは
相続不動産を共有にするのは基本的にリスクが高い行為といえますが、状況によっては相続不動産をいったん共有にしても良いケースもあります。
5-1.遺産分割に非常に時間がかかる
遺産内容が非常に複雑で調査に時間がかかる、相続人が海外居住などで非常に時間がかかる場合です。
こういったケースでは、調査や手続きが済むまで不動産が共有状態になってもやむを得ないでしょう。ただし共有は一時的な対応なので、できるだけ速やかに対応を進め、遺産分割を完了して特定の所有者を決定すべきです。
5-2.不動産以外の遺産の分け方が決定した
相続人同士で話し合った結果、不動産以外の遺産相続方法は決まったけれど不動産についてのみ意見が合わない場合です。
この場合、不動産が障害となって遺産分割協議自体が決裂してしまうと家庭裁判所で遺産分割調停をしなければならず、トラブルが長引きます。それであればいったん不動産を共有とし、他の遺産のみ分けてしまうのも1つの対処方法となるでしょう。
ただし共有のまま放置すると、不動産が新たな紛争の火種になります。いったん共有にしたとしても早期に共有物分割の話し合いや裁判手続きを進め、分割方法を決定しましょう。
6.不動産の相続トラブルは弁護士までご相談ください
不動産を相続した場合、相続人間で意見が合致せずもめてしまうケースが多々あります。事情があって共有状態にしたとしても、なるべく早めに単独所有者を確定しましょう。
当事務所では不動産の相続トラブルについて多数の事例を解決しており、積極的な助言やサポートを行っています。群馬県で不動産を相続され、何らかのトラブルを抱えておられる方がいらっしゃいましたら、是非とも1度、ご相談ください。