収益不動産の賃料の分配方法 ~独り占めされたらどうすれば良いのか?~

収益不動産の賃料の分配方法 ~独り占めされた場合の対処法を弁護士が解説~

賃貸アパートなどの収益不動産を相続した場合、賃料収入は誰のものになるのでしょうか?

 

特に問題になるのは、「遺産分割が完了する前の賃料」です。遺産分割後は不動産を相続した相続人が賃料を単独で収受できますが、遺産分割前は不動産が全員の共有状態となります。

その間、賃料を独り占めする相続人が現れてトラブルになってしまうケースが少なくありません。

 

今回は収益不動産を相続したときの賃料分配方法について、弁護士が解説します。収益不動産を相続された方はぜひ参考にしてみてください。

1.収益不動産の所有権について

通常、収益不動産から得られる賃料は「物件の所有者」が取得するものです。

相続した収益不動産の所有者は誰になるのでしょうか?

いったんは相続人全員の共有状態となる

遺産に不動産が含まれている場合、相続が開始するといったん「法定相続人全員の共有状態」となります。持分割合は、法定相続分と同じです。

その後遺産分割協議が成立して物件の相続人が決まったら、「その相続人の単独所有」に変わります。

注意点

注意したいのは「遺産分割時から」単独所有が開始するわけではないという点です。

遺産分割によって物件の所有者が決まったら、その効果が相続開始時まで遡ります。

つまり物件の新しい所有者(相続人)は「相続開始時から」物件を単独所有していたことになるのです。

収益不動産の押さえておくべきポイント

まとめると、収益不動産の所有者については以下のような理解となります。まずはその基本を押さえましょう。

  • 相続が発生すると収益不動産は「法定相続人全員の共有状態」となる
  • 遺産分割によって所有者が決まると、収益不動産は相続開始時に遡ってその所有者(相続人)の単独所有だったことになる

2.収益不動産の賃料の行方

 

それでは収益不動産から得られる賃料は誰のものになるのでしょうか?

賃料の行方は「賃料が発生した時期」によって異なります。場合わけしてみていきましょう。

2-1.相続開始前に発生した賃料

相続開始前に発生した賃料は、被相続人の財産です。遺産の内容となるので、相続発生時に法定相続人へ法定相続分とおりに分配されます。

たとえば上記の様に、相続開始前に300万円の賃料が発生していて3人の子どもが相続する場合です。

相続開始後に3人が、それぞれの法定相続分3分の1にあたる100万円ずつの賃料を取得します。

2-2.遺産分割後に発生する賃料

遺産分割後に発生する賃料は、遺産分割によって収益不動産を取得した相続人に帰属します。

たとえば遺産分割によって長男が物件を相続することに決まったとします。

その場合、その後に発生する賃料はすべて長男が単独で取得します。

2-3.遺産分割前に発生する賃料

問題になるのは相続開始後から遺産分割までに発生する賃料です。

賃料は「物件の所有者」が取得するものです。

とすれば、遺産分割までに発生した賃料も、遺産分割によって物件を相続することになった相続人のものになりそうですが、実際はどうなるのでしょうか?

2-4.遺産分割時までに発生した賃料はそれぞれが取得できる

実際のところ、裁判所はそういった理解をしていません。

遺産分割時までに発生した賃料は「物件とは別の独立した財産」と考えているからです。

物件とは無関係の別個の財産なので、物件の所有者が後から決まったとしても影響を受けません。

賃料が発生したらその都度「法定相続人へ法定相続分に応じて帰属する」と考えられています(最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決)。

この考え方によると、相続開始から遺産分割が成立するまでに収益不動産から賃料債権が発生すると、相続人が法定相続分に応じて賃料を取得します。

後から物件の所有者が決まったとしても清算する必要はありません。

たとえば上の図のように、相続開始後毎月30万円分の賃料が発生しており、3人の子ども達が相続するとしましょう。

この場合、遺産分割が成立するまでの間は、子ども達がそれぞれ毎月10万円ずつの賃料を取得できます。

後で遺産分割協議が成立して長男が物件を単独相続することになっても、弟や妹たちは兄に賃料を返還する必要はありません。

3.遺産分割前の賃料管理方法

遺産分割前の賃料は、誰がどのように管理すれば良いのでしょうか。

ここでは、基本的な管理方法を解説します。

3-1.誰か1人の相続人の口座を入金先に指定する

相続が開始すると被相続人名義の口座は凍結されるので、入金先に利用できなくなります。

賃借人が混乱しないように、相続人のうち1人を代表者として、その名義の口座を入金先に指定するのが通常です。

3-2.賃料管理の手順

遺産分割前の賃料管理をスムーズに行うには、以下のような手順で対応しましょう。

 

1賃料を管理する相続人を決める
まずは相続人全員で話し合い、賃料を管理する相続人を決めましょう。賃料を入金する預金口座も特定します。このとき、管理者の生活費などの個人的なお金と混じってしまわないように、賃料入金専用の口座を作るとトラブルが発生しにくくなります。

 

2管理者名義の口座へ入金するよう指示する
次に、賃借人へ「今後はしばらく管理者名義の口座へ賃料を入金するように」と伝えましょう。後に遺産分割が完了した場合には入金先を変更する可能性があることも合わせて知らせておくと、遺産分割後の混乱や苦情、不払いなどのトラブルを防ぎやすくなります。

 

3管理者は他の相続人へ明細を開示する
賃料が入金されたら、管理者が管理します。他の相続人から明細開示を求められたらいつでも開示できるように適切に管理しましょう。勝手な出金をしてはなりません。

 

4賃料を分配する
賃料がたまったら相続人間で分配します。分配のタイミングは、相続人同士で話し合って設定しましょう。1か月ごとでも3か月ごとでもかまいません。

複数回の清算が面倒であれば、遺産分割時にまとめて清算しても良いでしょう。

4.遺産分割で相続人が決まった後の手続き

遺産分割によって収益不動産の相続人が決まったら、早めに所有権の名義変更登記をしてください。

近年の法改正により、相続によって不動産を取得した場合にも登記しないと第三者へ対抗できないとされました。つまり名義変更登記をしないと、賃借人に対しても新たな物件所有者であることを主張できないのです。

登記をした上で新たな所有者となったことを賃借人に知らせて、今後は相続人の口座へ賃料を入金するよう伝えれば、滞りなく入金が行われやすくなります。

「賃貸借契約書」の作成し直しを

また、賃貸人の名義が換わった以上「賃貸借契約書」も作成し直すようお勧めします。

確かに法律上、契約書を書き直さなくても賃貸人の変更自体は有効に行われますが、被相続人名義の契約書のままでは契約関係がわかりにくくなるためです。

後々の混乱を避けるため、賃借人に事情を伝えてあらためて賃貸借契約書に署名押印してもらいましょう。

5.特定の相続人が賃料を独り占めする場合

遺産分割前、特定の相続人が賃料を独り占めしてトラブルになった場合にはどうすれば良いのでしょうか?

自分の取得分の取り戻しを請求できる

特定の相続人が賃料を独り占めした場合、他の相続人の賃料を取得する権利が侵害されます。

そこで他の相続人は独り占めしている相続人へ、自分の取得分の取り戻しを請求できます。法的には「不当利得返還請求」や「不法行為にもとづく損害賠償請求」が可能です。

任意に請求しても返還してもらえないなら、訴訟を起こして裁判所による支払い命令を求めることも可能です。

遺産分割協議で同時に解決する

ただ、賃料を取り戻すためにわざわざ訴訟を申し立てるのは手間がかかるでしょう。

そこで遺産分割協議において、賃料の問題も同時に解決する方法がお勧めです。

遺産分割協議時、相続開始後に発生した賃料の総額を計算し、独り占めした相続人の取得分からその賃料分を差し引けば、公平に相続できます。

遺産分割協議を行っても、独り占めした相続人がどうしても賃料の返還に応じない場合には、最終手段として訴訟を検討しましょう。

6.収益不動産の相続トラブルは弁護士までご相談ください

収益不動産を相続すると、相続人間で「誰が相続するのか」「賃料をどう分けるのか」「不動産の評価方法」などで意見が対立してトラブルになるケースが多々あります。

スムーズに解決するためには、経験豊富な弁護士のサポートが必要なシーンも出てきます。

当事務所では不動産の相続トラブル解決に力を入れております。群馬県で不動産を相続され、お悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひとも1度ご相談ください。

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