公開日
最終更新日

暦年贈与が廃止される?相続対策が変わる!

贈与の模型2022年現在、相続税対策として「暦年贈与」が有効です。
数年にわたって暦年贈与を繰り返していくと、高額な資産を無税で贈与できるのでメリットが大きいといえるでしょう。
しかし近年中、国税庁により暦年贈与が廃止されようとしています。
今回は暦年贈与を利用できなくなる理由や時期、対処方法をお伝えしますので、相続税の節税に関心のある方や現在暦年贈与を行っている方はぜひ参考にしてみてください。

暦年贈与とは

紙幣と計算機暦年贈与とは、贈与税の非課税枠(基礎控除)を利用した贈与方法です。
贈与税には「1年に110万円以下であれば贈与税がかからない」という基礎控除が適用されます。
基礎控除は「贈与を受ける人」ごとに計算されるので、複数の人へ毎年110万円ずつ贈与すると贈与税はかかりません。

どんな財産でも基礎控除が適用できる

財産のイラストまた基礎控除はどのような財産にも適用されます。
たとえば預金、現金、不動産、車、保険など、どのような財産も無税で贈与できます。
暦年贈与により、複数の子どもや孫などへ年間110万円以内で贈与を繰り返していけば、高額な資産を無税で引き継がせることができます。
たとえば3人の子どもと2人の孫に対して年間110万円ずつ贈与し続けて10年が経過すると、無税で5,500万円を贈与できるのです。
そこで高額な現預金のあるご家庭では、暦年贈与を利用して相続税の節税対策をしている例が非常に多く見られます。

暦年贈与が廃止される

悩む夫婦贈与税の非課税枠を利用した暦年贈与は代表的な相続税節税対策方法といえますが、現在、廃止される可能性が濃厚となっています。
国税庁は近年中に贈与税の基礎控除枠を廃止する見込みを示唆しているのです。
「令和4年にも廃止されるのではないか」と予想されていましたが、令和4年の税制大綱では基礎控除が維持されました。
ただし今後、贈与税の基礎控除枠を見直す姿勢が明らかにされています。

贈与税の基礎控除を廃止する理由

なぜ贈与税の基礎控除枠が廃止されようとしているのでしょうか?
理由をみてみましょう。

高齢者から若年層への資産移転を促進する必要性


花の手渡し現在、日本では高齢者が比較的多くの資産をもっており、若年層の保有する資産が少ない状況が続いています。
しかし消費活動を行って経済を活性化させるのは、主に若年層です。
贈与を促進し、高齢者から若年層への資産の移転を促す必要があるといえるでしょう。
そのためには贈与税や相続税に関する制度の見直しが必要です。

富裕層とそうでない層の格差が固定化している

現状では、富裕層とそうでない層の格差が広がり固定化しつつあります。

格差が固定すると経済が活性化しにくく資産の少ない層の生活が厳しくなるなどの問題もあり、解消しなければなりません。

ところが贈与税に基礎控除が認められると、富裕層は資産を分割して贈与し続ける「暦年贈与」により、高額な資産を無税で贈与できてしまいます。

一方で、資産の少ない層は生前贈与制度の活用ができません。

これではますます格差が固定化してしまう可能性があります。

そこで贈与税の基礎控除を廃止して別の税制を整えることにより、格差が生まれにくく固定化しにくいよう変化させるべきと考えているのです。

上記のような理由で、国税庁としては近年中に贈与税の基礎控除枠を廃止し、別の税制を打ち立てようとしています。

国税庁の基本方針は、令和4年における税制改正大綱で明らかにされていますので、関心がありましたらご覧ください。

令和4年度税制改正大綱(10P、11P)
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/202382_1.pdf

暦年贈与が廃止される時期

カレンダー贈与税の非課税枠はいつから廃止されるのでしょうか?
その時期についてはまだ明らかになっていません。
少なくとも令和4年においては廃止されなかったので令和5年以降になるでしょう。
現時点では贈与税の基礎控除を使えるので、現時点で暦年贈与を行っている方は、継続しても贈与税の節税対策ができますし、新たな設定も可能です。
ただ早ければ令和5年度の税制大綱でも贈与税の基礎控除枠が廃止される可能性があり、年間110万円までの非課税枠がなくなります。すると暦年贈与は不可能となり、贈与税が発生する可能性が高くなります。
税制大綱は毎年発表されるので、暦年贈与を行っている方は注視していく必要があるでしょう。

暦年贈与廃止に向けた対策方法

国税庁が暦年贈与の廃止に向けて動く中、どのように対応すれば良いのか対策方法をいくつかお伝えします。

現時点で暦年贈与を行う

贈与契約書令和4年の時点においては暦年贈与を有効に行えます。
毎年110万円の基礎控除を使えるので、積極的に利用するとよいでしょう。
以前から継続している方であれば今年も同様に行うとよいですし、今年初めて適用してもかまいません。

暦年贈与は必ず贈与契約書を作成

暦年贈与を行う場合には、必ず贈与契約書を作成すべきです。 契約書なしで贈与すると、後に相続税の税務調査が入ったときに「名義預金」として贈与を否定されるリスクが高くなるからです。名義預金とは、贈与契約をせずに被相続人が無断で相続人名義の口座へ入金した預金をいいます。名義預金は贈与にならず、「被相続人の遺産」とみなされるので、相続税の課税対象になります。
贈与契約が成立するには、贈与者と受贈者双方の同意が必要なので、その証明のために贈与契約書を作成しましょう。

別の贈与税控除制度を利用する

令和5年度税制改正大綱により、下記贈与の内容が変更となりました。
『住宅取得等資金の贈与の非課税制度』…最大1500万円の非課税枠が1000万円に変更
『教育資金の一括贈与』…2023年3月31日まで→2026年3月31日に延長
『結婚・子育て資金の一括贈与』…2023年3月31日→2025年3月31日に延長

 

贈与税には基礎控除以外にもさまざまな控除制度があります。

基礎控除枠が撤廃されても利用できるものも多いので、積極的に活用しましょう。

制度 内容 控除される金額(最大)
贈与税の配偶者控除 20年以上連れ添った夫婦間での贈与 2000万円
結婚・子育て資金の一括贈与 子や孫の結婚・子育て資金を一括で贈与 結婚資金のみ:300万円
子育て資金も含む:1000万円
住宅取得等資金の贈与の非課税制度 子や孫が不動産を購入するときの資金を贈与 1000万円
教育資金の一括贈与 子や孫の教育資金を一括で贈与 学校への支払い:1500万円
習い事:500万円
相続時精算課税制度 子や孫への贈与 2500万円

以下で、各制度について詳しく解説します。

贈与税の配偶者控除

シニア夫婦20年以上連れ添った夫婦間において、居住用の不動産や居住用の不動産を購入、建築するための資金を贈与したとき、最高で2,000万円分までの贈与分が無税になる制度です。

結婚・子育て資金の一括贈与

 

結婚式親や祖父母が子どもや孫へ結婚子育て資金を一括で贈与したときに適用される特例です。
最大で1,000万までの贈与分が非課税になります。ただし結婚資金については300万円が限度です。
贈与を受ける子どもや孫は50歳以下でなければならず、50歳になった時点で使いきれなかった分については通常通り贈与税がかかります。
なお、令和5年度税制改正大綱により、50歳までに使いきれなかった分にかかる贈与税の税率が特例税率から一般税率へ変更となりました。

住宅取得等資金の贈与の非課税制度

マイホーム親や祖父母が子どもや孫に対し、居住用の不動産を購入するための資金を贈与したときに適用される特例です。
住宅の性能にもよりますが、最大1,000万円までの贈与分が無税となります。
ただし無税の対象となるのは「取得資金を贈与した場合」に限られます。
不動産そのものを贈与した場合や住宅ローンを肩代わりした場合には特例を使えないので注意しましょう。

教育資金の一括贈与

授業を受ける高校生親や祖父母が子どもや孫へ、教育資金を一括で贈与したときに一定金額が非課税となる特例です。
学校などへの支払いに使われる分は最大1,500万円、塾や習い事、スポーツクラブなどへ支払われる費用分については最大500万円まで控除されます。
子どもや孫は30歳以下である必要があり、30歳時点で使いきれなかった分に対しては通常通り贈与税がかかります。
令和5年度税制改正大綱で適用期限が3年間延長され2026年3月31日までになったほか、使いきれなかった分にかかる贈与税の税率が一般税率へ統一されました。

相続時精算課税制度

電卓で計算をする税理士の手元相続時精算課税制度とは、親や祖父母が子どもや孫へ贈与するとき、最大2,500万円までは贈与を受けた人が贈与税を支払わずに受け取ることのできる制度です。
その後、贈与をした人が亡くなった時には、贈与分とその他の遺産の価額を合算した金額から相続税を計算し、一括して相続税として納税する事になります。
ただし、計算した結果、相続税の納税が必要ない場合には贈与税もかかる事はありません。
早期にまとまった資金が必要な子どもや孫へ贈与したいときに有効となる制度です。
なお、2,500万円を超える贈与に対しては、一律で20%の贈与税がかかります。
相続時精算課税制度は無税になるものはなく、相続時に贈与分が遺産に組み入れられてまとめて相続税がかかるので、税の納付時期を先延ばしにする制度と考えるとよいでしょう。

相続時精算課税制度で節税する方法

相続時精算課税制度を利用すると、贈与財産の評価時は「贈与時」になります。

贈与時に値下がりしていて相続時に値上がりしている場合、効果的に節税できる可能性があります。

たとえば不動産や株などで、評価額が下がったタイミングで贈与しておけば、節税対策に有効となるでしょう。

相続時精算課税制度に基礎控除110万円が創設

現時点において、相続時精算課税制度と暦年贈与はどちらかを選択して適用が可能です。

注意したいのが、いったん相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与は利用できなくなるという点です。
そのため、制度としては使いづらい面があるため、利用者の人数は多いとは言えませんでした。

 

しかし、令和5年度税制改正大綱によって、相続時精算課税制度に基礎控除110万円が創設されました。つまり、相続時精算課税制度を選択した後でも110万円が控除され、相続時にも加算されず、さらに110万円以下の贈与であれば申告も不要です。

この基礎控除110万円については、2024年1月1日以降の贈与から適用となります。

生命保険を使った暦年贈与活用方法
を利用している場合の注意点

生命保険証券現在、暦年贈与の手段として「生命保険」が広く利用されています。預金や現金をそのまま贈与するのではなく、生命保険と組み合わせて効果的に節税する方法です。
具体的には相続人(予定者)が生命保険を契約し、被相続人(予定)が保険金を払い込み、被保険者を被相続人とします。

生命保険を使った暦年贈与のメリット

このように生命保険を設定すると、契約者である相続人は保険料を払い込む必要がありません。被相続人が亡くなったときには死亡保険金を受け取ることが可能です。

一方で、被相続人は毎年110万円程度の保険料を払い込み続けることにより、資産額を減らせて相続税を節税できます。保険料の払込は贈与になりますが、年間110万円以下であれば贈与税はかかりません。

たとえば子どもが生命保険を契約し、親を被保険者として親が保険料を払い込みます。こうすれば、親の資金を保険料として支払うことができますし、親が死亡したときに子どもがまとまった死亡保険金を受け取れます。

暦年贈与が廃止される前に、保険契約の見直しを

このように生命保険を利用して贈与税を節税されているご家庭では、暦年贈与が廃止されるとその年から贈与税がかかる可能性があります。

暦年贈与が廃止される可能性をふまえて、現在の保険契約の内容を見直しておく必要があるでしょう。

放っておくと予想外の税金が発生する可能性もありますので、税制改正の内容に注意をはらっておくべきです。

相続対策はお任せください

群馬の山本総合法律事務所では相続対策に力を入れて取り組んでいます。

遺言書作成、遺産分割、相続税への備えなど広く対応しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

この記事をシェアする

XFacebookLine

この記事を書いた人

代表弁護士 山本哲也

弁護士法人山本総合法律事務所

代表弁護士 山本哲也

>>詳しくはこちら

初回相談60分無料

累計1,300件を超える相続に関する
ご相談をいただいております。
お気軽にご相談ください。

無料相談のご予約