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認知症の家族がいる場合の遺産分割における注意点

相続が発生した場合、相続人たる家族も高齢であることが少なくありません。その中には、認知症を患い、判断能力が低下している方も含まれている可能性が相当程度あります。

このような場合、遺産分割をするにあたって、どのような点に注意すべきでしょうか。

今回は、認知症の家族がいる場合の遺産分割について解説していきます。

 認知症の家族がいる場合、遺産分割はできる?

 

最初に、認知症の家族が相続人の中にいる場合に、遺産分割ができるかについて解説をします。

遺産分割をするには「意思能力」が必要

そもそも、相続人として遺産分割を行うには、「意思能力」というものが必要とされています。

「意思能力」というのは、自分の行為の結果、自分の権利や義務がどのように変動するかを判断することができる精神状態あるいは精神的な能力のことをいいます。

遺産分割協議において意思表示をすることにより、財産を取得する権利を得たり、逆に借金の支払いをする義務を負うこととなります。

そのため、遺産分割を行うには、「意思能力」が必要とされているのです。

【参考】遺産相続を弁護士に相談すべき11の状況

認知症と意思能力

認知症は、様々な脳の病気により、記憶力や判断能力が低下していく状態です。

認知症の程度が軽い場合には、判断能力にやや衰えがあったとしても意思能力を欠くとまでは言えないこともあります。

しかし、認知症の程度が重くなっていくと、判断能力がないに等しい状態になり、意思能力を欠くことになります。

意思能力を欠く認知症の家族が相続人の中にいる場合の遺産分割

意思能力を欠く人が行った意思表示は無効となります。

したがって、認知症により意思能力を欠く相続人が参加して行われた遺産分割は無効となります。

また、遺産分割は相続人全員で協議して行わなければならないものであるため、認知症の相続人を除外して行った遺産分割も無効となります。

すなわち、意思能力を欠く認知症の家族が相続人にいる場合には、その手当てをしたうえで遺産分割を行うことが必要となります。

【参考】円満に遺産分割を進めるためのポイント

認知症の家族がいても遺産分割をするために必要なこと

ポイント

意思能力を欠く認知症の相続人がいる場合に、これを放置して行う遺産分割は無効となります。

そこで、有効な遺産分割を行うためにどのようなことが必要か、以下で解説します。

まず医師による診断を受けてもらう

まず、認知症がどの程度に至っているのかを判断するために、専門医による診断を受けてもらうことが必要です。

専門医による診断の結果、意思能力を欠くまでには至っていないということであれば、そのまま遺産分割に参加してもらっても良いでしょう(ただし、後日遺産分割の無効が主張されないようにするために、医師から診断書を発行してもらうことが望ましいと考えられます)。

意思能力を欠く場合には成年後見人をつける

医師による診断の結果、認知症の相続人が意思能力を欠く状態にあると判明した場合には、遺産分割に先立って、その相続人に成年後見人をつけることが必要です。

成年後見人は、本人、配偶者、四親等内の親族等が家庭裁判所に申立をすることなどにより、家庭裁判所が後見開始の審判を行って就任することになります。

成年後見人に選任されるのは、弁護士や司法書士、家族など様々です。

なお、仮に、成年後見人についたのが他の相続人の場合には、後見監督人が選任されて、遺産分割協議に参加することになります。

成年後見人が就任するまでには、申立てをしてから、概ね数か月程度かかります。

その間遺産分割の協議を行うことはできませんが、相続財産を他の相続人が無断で費消せずに、成年後見人が就任するのを待つ必要があります。

認知症の家族がいることを理由に遺産分割をしないリスク

リスク

意思能力を欠く認知症の相続人に成年後見人もつけず、遺産分割をしない場合には、どのようなリスクがあるでしょうか。以下で解説します。

法定相続をする場合のリスク

まず、遺産分割協議をすることをあきらめ、法律で定められた相続分を相続人のそれぞれが取得するということが考えられます。

法律に違反しているわけではありませんが、以下のような問題があります。

まず、相続財産に不動産がある場合には、相続人全員の共有となります。仮に、この不動産を誰かに貸す、あるいは処分するといった場合に、認知症の人がいることで法律上必要とされる合意の要件を満たさず、取引が進まないといった事態になることが予想されます。

また、相続財産に預貯金がある場合、払い戻しを受けるためには、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明が必要です。認知症の相続人の分の戸籍謄本や印鑑証明の取得は代理人を立てる必要があり、手間がかかることになります。

【参考】法定相続人・法定相続分とは

法定相続手続を放置する場合のリスク

法定相続の手続が煩雑であるとしてこれを放置すると、法律に違反する事態が発生する恐れがあります。

法改正により、令和6年4月1日から、相続登記が義務化され、不動産を相続した相続人は、その所有権の取得を知った日から原則として3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなりました。

この制度は、相続登記が放置されることによって所有者不明となる不動産を減らすために設けられたものです。

3年以内に相続登記をしないからといって処罰されるわけではありませんが、登記を放置すると、不動産を売却することが事実上できなくなるので、不利益は大きいといえます。

 相続が発生する前にできる対策

そこで、高齢の家族がいる場合には、相続発生前に対策をとっておくことが必要です。

最も有効な対策は、任意後見契約をしておくことです。

任意後見契約とは、まだ判断能力があるうちに、将来、認知症などにより自分の判断能力が低下した場合に備えて、自分の生活や財産の管理に関する事務を行ってもらうように、予め信頼できる人に依頼しておく契約のことをいいます。

任意後見契約は,締結した時点では効力が発生しません。本人が意思能力を欠く状態になった際に、申立人が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人選任の審判をした時点から契約の効力が生じて、任意後見が開始されることとなります。

相続開始前に、任意後見契約を結んでいた相続人候補者が認知症により意思能力がなくなった場合には、家庭裁判所に申し立てることにより、任意後見が開始され、任意後見監督人も併せて選任されることになります。

そうすると、いざ相続が開始された場合には、任意後見人(任意後見人も相続人の場合は任意後見監督人)が認知症の相続人のかわりに遺産分割協議に参加して、相続人全員で有効な遺産分割を行うことが可能となります。

【参考】相続紛争とは?トラブルになりやすいケースや紛争を起こさない方法について弁護士が解説

まずは弁護士にご相談ください

相続開始前に相続人候補者の中に認知症の方がいる場合、あるいは、相続が開始され、遺産分割協議をしたいのだけれど、相続人の中に重い認知症の方がいる場合には、まず、弁護士にご相談ください。

任意後見契約や成年後見申立ての具体的な手続等について助言を受けることができ、速やかに遺産分割ができるようになります。

当事務所には、認知症の方がいる場合の相続の問題についてアドバイスができる弁護士が在籍しております。どうぞお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

代表弁護士 山本哲也

弁護士法人山本総合法律事務所

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