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円満に遺産分割を進めるためのポイント
- 執筆者弁護士 山本哲也
目次
どういった場合に遺産分割が必要となるか?
遺産分割とは、相続人の間で被相続人が死亡時に有していた遺産を分け合うことです。その分け合い方は原則として話し合いで決められ、このことを遺産分割協議といいます。
共同相続人が複数存在する場合、被相続人が死亡して相続が開始すると、相続財産は共同相続人間で共有する状態になります。
この相続財産を共有する状態から、各相続人に相続財産を分配するために遺産分割をする必要があります。
そのため、遺産がそもそも存在しない場合には遺産分割をする必要はありません。
また、被相続人が遺した遺言によって遺産の帰属、処分方法が明確である場合には、遺産分割協議による必要はなく、遺言にしたがって分割することになります(なお、遺言の内容によっては、遺産分割協議とともに、遺留分についても協議をする必要があります。)。
【参考】遺産分割協議
遺産分割の対象となる財産の範囲
遺産分割の対象となるのは、遺産分割時に現存する相続財産です。
しかし、遺産分割時に現存した相続財産のすべてが遺産分割の対象となるわけではありません。
まず、遺産分割の対象となるものとして典型的なものは以下のものです。
- 現金
- 不動産
- 動産
- 株式
- ゴルフ会員権
これに対して、相続財産の内容によって、遺産分割の対象とならないものがあります。
その例として可分債権というものがあります。
可分債権とは、性質上分割することができる債権のことで、代表的なものが金銭債権です。
たとえば、1000万円の売掛債権は、2人で500万円ずつに分割して行使することができます。
これに対して、自動車を引き渡せ、というような債権は分割して行使することができない(自動車を半分引き渡せとはいえない)ので可分債権ではありません。
相続財産に可分債権があった場合、遺産分割を経ることなく、当然に相続人に分割されて帰属することになります。そのため、可分債権は遺産分割の対象ではないのです。
しかし、可分債権にも例外があります。
それは預貯金です。
預貯金は、銀行に対して預貯金の払い戻しを請求することができる可分債権です。そのため、従来、預貯金は遺産分割の対象とならず、相続発生と同時に相続人に分割して帰属されるものと考えられてきました。
しかし、最高裁判所は、預貯金は実質的には現金と近い財産であるため、現金と同様に遺産分割の対象となると判断されました。そのため、預貯金は可分債権ではありますが、遺産分割の対象となります。
可分債権以外に、遺産分割の対象とならないものして以下のものがあります。
- 生命保険金(例外的に保険金額が高額な場合には特別受益として協議の対象になります。)
- 祭祀財産
- 葬儀費用
- 香典
【参考】相続財産について
遺産分割を行うための 4 つの方法
遺産分割の方法として、4つの方法があります。以下では、それぞれの方法についてメリット・デメリットをみていきましょう。
現物分割:それぞれの説明とメリット・デメリット
現物分割とは、相続財産をそのまま相続人間で分け合う分割方法です。
たとえば、土地についてはAが、建物についてはBが相続するなど財産ごとに相続人に割り振ったり、土地を2つに分けてAとBに1つずつ割り振ったりするような場合です。
この場合、自宅などの財産を売却して金銭に換価する必要がないので、他の方法より簡単に分割できることがメリットです。
他方で、分け合ったものがそれぞれ全く同一の価値とすることは難しいので、相続人間で不平や不満がでるおそれがあります。
代償分割:それぞれの説明とメリット・デメリット
代償分割とは、複数の相続人のうち1人がある相続財産を相続し、その代わりに他の相続人に対してその代償として金銭を支払う方法です。
たとえば、1000万円の価値の不動産をAが相続した場合、もう一人のBに対してその半額の500万円を支払うことになります。
この方法による場合、公平に相続人間で分割をすることができるため、不平や不満は起きにくいというメリットがあります。
これに対して、上記の例で不動産を承継した相続人は、金銭の支払いの負担が生じてしまう点がデメリットとして考えられます。
換価分割:それぞれの説明とメリット・デメリット
換価分割とは、相続財産を売却して金銭に換価して金銭を相続人間で分割する方法です。
この方法によれば、相続人間で公平に分割することができる点がメリットです。
これに対して、相続財産を維持することができないことや、売却の手間と費用が掛かってしまう点がデメリットとして考えられます。
共有分割:それぞれの説明とメリット・デメリット
共有分割とは、相続財産を相続人間で共有して持つ分割方法です。
たとえば、AとBが共同相続人としてある不動産を相続する場合、AとBは、その不動産の共有持分を2分の1ずつ持つことになります。
共有持分として分割する場合、共同相続人間で細かく協議することなく、簡易に共同相続人間で分割することができる点がメリットです。
これに対して、特に不動産を共有すると、その後に売却する場合やリフォームをするような場合でも共有者の全員の同意が必要になるなど、トラブルの要因となる可能性が高い点がデメリットとして考えられます。
遺産分割を放置した場合に想定されるトラブル
遺産分割には上記のとおり様々な方法があり、その内容については相続人間で協議をして進めていかなければならず、これには手間と時間がかかります。
そのため、相続が発生しても遺産分割がうまく進まず、放置されてしまう場合があります。
では、遺産分割を放置するとどのようなリスクがあるのでしょうか?
まず、遺産分割を放置すると、その間に共同相続人の中でまた死亡した人が出てくることで、相続関係が複雑化することが考えられます。相続が複数重なると、誰が相続人となるのか、その調査だけでも相当の時間がかかり、さらに相続登記の手続きの費用なども高額となってしまいます。
相続人の範囲が広がると、協議も円滑にまとまらなくなる可能性も高くなります。
また、死亡だけでなく、たとえば共同相続人の中で認知症となる者や行方不明となってしまうような場合も、相続を複雑化する原因となります。認知症となった者については成年後見人を選任したり、行方不明者については不在者財産管理人を選任するなどしたうえで、遺産分割協議をする必要があるのです。
また、相続開始後10か月以内に遺産分割協議ができていない場合、とりあえず法定相続割合に応じて相続税の申告をすることとなります。また事前に適正な手続きをしておかなければ、各種控除や相続税免除を受けられない場合があります。そのため、相続税が高額となってしまうリスクがあります。
さらに、相続財産の中に多額の借金がある場合には相続放棄を検討する必要がありますが、相続放棄は相続があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。遺産分割の対応を放置していると、相続財産の中に多額の借金があることに気づかず、そのまま3か月を経過してしまうおそれがあります。
遺産分割をスムーズに進めるためのポイント
遺産分割協議をスムーズに進めるためには、正しい法的理解をすることが重要です。
遺産分割協議となると多額の財産の帰属が問題となることが多いので、親族間でもめてしまう原因となってしまいます。
そのときに、感情的な話し合いだけで進めてしまうと折り合いがつかず、協議が長引いてしまいます。
正しい法的理解があれば、自分の主張や相手の主張が正当なものなのか、無茶なものなのかを客観的に整理することができますし、それに基づいて相手を説得することができます。
遺産分割については裁判例などパターンに応じて過去の蓄積も多くあるので、これらを参考に公平感のある解決を目指すこともできます。
遺産分割を弁護士に依頼するメリット|円満に遺産分割を進めたい方は弁護士法人山本総合法律事務所へ
遺産分割を進めるためには正しい法的理解が必要であることが理解できたと思います。
しかし、遺産分割をはじめとする相続手続は複雑な要素も多く、いざ相続が発生した場面でこれらをすべて理解することは難しいです。
そのようなときは相続に詳しい弁護士に依頼することで、専門的な知識に基づいて適切なアドバイスを受けることができます。
また、遺産分割協議は共同相続人全員で行う必要があります。遺産の取り合いとなってしまっているような場合では、他の相続人とのコミュニケーションはかなりの精神的な負担となります。弁護士に依頼することで、このようなコミュニケーションを弁護人すべて任せることができるので精神的な負担から解放されることが期待できます。
また、第三者的な立場からうまく相続人同士をまとめることで遺産分割協議がうまくまとまる可能性も高くなります。
ただし、弁護士であっても相続分野に詳しくない弁護士は多くいます。相続分野はより専門的な知識と経験が必要なものなので、弁護士に依頼するときはよく検討をしましょう。
弁護士法人山本綜合法律事務所は、これまで多数の相続案件を対応した実績があり、相続分野の専門的な知識・経験を有しています。
遺産分割協議を円満に進めたい方はぜひ弁護士法人山本総合法律事務所にご相談ください。