自筆証書遺言とは
- 執筆者弁護士 山本哲也
目次
1.自筆証書遺言とは
自筆証書遺言のメリットとは
自筆証書遺言は手軽で自由度が高い
- 手軽で自由度が高い
自筆証書遺言は、自筆であること、日付の記載があること、署名捺印があることなど最低限の条件さえ整っていれば有効とされる遺言書です。そのため、自書能力さえ備わっていれば、いつでもどこでも自らの意思に従って作成することができ、手軽で自由度が高いといえます。
署名のみで押印のない遺言書は、民法968条1項が定める方式に反しているため、無効です。
もっとも、押印するときに使う印鑑は実印である必要はなく、三文判でも問題ありません。また、今回の質問では、印鑑が見つからなかったということですが、自筆証書遺言の作成に必要な押印は指印でも問題ありません。
公証人等の第三者が関与することもないので費用もかかりませんし、遺言者本人以外が作成に関与する必要がないので、作成の事実や内容を秘密にしておくことも可能です。
- 一部をパソコンで制作することが可能に
なお、今ままでは法律上、遺言書すべてを自書する必要がありましたが、2019年1月31日より、財産目録についてはパソコンでの制作が可能となり、預金通帳のコピー等を添付することも可能となりました(民法968条2項)。
自筆証書遺言のデメリットとは
手軽に作成できメリットも多い自筆証書遺言ですが、デメリットもあります。
- 不備があると遺言が無効になってしまう事も
そもそも、遺言書は、作成や加除その他の変更の方式が法律上厳格に定められているため、方式に1つでも不備があると遺言が無効となってしまう可能性があります。
自筆証書遺言は、公正証書遺言などに比べて公証人などが関与しないために方式をチェックしてくれる人がおらず、遺言が無効となる可能性が高いといえます。
- 裁判所での検認が必要
自筆証書遺言は、法律上有効に作成されたことが確認できていないので、遺言者の死後、家庭裁判所において「検認」の手続きを経る必要があります。
- デメリット解消の新制度が2020年からスタート
なお、自筆証書遺言については、2020年7月10日(施行)より、法務大臣の指定する法務局に当該遺言書の保管を申請することができるようになります。
保管に際しては、遺言書の方式の適合性を確認することになり、保管されている遺言書については検認の手続きを経る必要がなくなります。
遺言者の死亡後に相続人や受遺者らは、遺言書保管所において、遺言の保管の有無、保管されている場合には遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付請求をすることができます。また、相続人や受遺者らは、遺言書を保管している遺言書保管所で遺言書を閲覧したり、遺言書の画像情報が表示された書面(遺言書情報証明書)の交付を請求したりすることもできます。
これまであった自筆証書遺言のデメリットを解消してくれる制度といえるでしょう。
2.自筆証書遺言の書き方の注意点
家族が手伝う場合
自筆証書遺言において、遺言の全文等を自書(手書き)しなければならないとされているのは、遺言の偽造や変造を困難にし、遺言が遺言者の真意に基づいてなされたことを担保するためのものです。
そのため、ワープロやタイプライターでの遺言、ビデオやテープレコーダーなどの録音メディアでの遺言、他人の代筆により作成した遺言のいずれも、「自書」の要件を欠き、自筆証書遺言としては無効ということになります。
これに対して、遺言者が一人ではきちんとした文字を書けないため、他の者に添え手をしてもらって遺言書を作成した場合について、他の者に添え手をしてもらったことのみにより直ちに「自書」の要件が否定されるわけではなく、一定の場合には「自書」の要件を充たすとした判例があります。
もっとも、添え手による遺言については、具体的にどのような場合に「自書」の要件を充たすのかが必ずしも明らかではありせんから、他人に添え手をしてもらってした自筆証書遺言が、遺言者の死亡後、「自書」の要件を欠き無効とされることも十分考えられます。
したがって、他人の添え手がなければ、手書きによる遺言書の作成が困難という場合には、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言の方式により遺言書を作成することを検討されるのがよいかと思います。
日付の記載方法について
自筆証書遺言の場合、遺言者が遺言の全文、日付及び氏名を自書(手書き)し、押印することが必要です。
自筆証書遺言の場合、遺言に当たり証人や立会人がいないのですから、日付の自書は不可欠といえます。
遺言者が、遺言をする時において遺言能力を有していなければ、遺言は無効です。日付の記載は、遺言能力の有無の基準時となります。また、遺言書が複数ある場合には、後の遺言と抵触する限度で前の遺言は撤回されたとみなされます。日付は、遺言が複数ある場合における遺言の先後を確定するために必要です。
したがって、遺言書に日付が自書されていることが必要なのは当然ですが、これに加えて、遺言書に自書されている日付が、年月日まで客観的に特定できるような形で記載されている必要があります。年月日が特定できればよいのですから、必ずしも、「平成○年×月△日」というような記載である必要はなく、例えば、「自分の70歳の誕生日」といった記載でも日付の記載としては足りることになります。しかし、今回の質問の場合、遺言書の日付は、「平成19年9月吉日」と記載されており、このような記載では、年月日まで客観的に特定できるような形で日付が記載されているとは言えませんので、遺言としては無効ということになるでしょう。
記載する用紙について
自筆証書遺言の場合、遺言の本文、日付及び氏名を自書(自ら手書きすることです)し、押印することにより完成します。
このように「自書」することが必要ですから、ビデオテープやカセットテープなどに録画・録音しても、「自書」にはあたらず、遺言としての効力は認められません。
しかし、民法は、「自書」するにあたって用いる用紙について、用紙の種類や大きさを特に限定することはしていません。したがって、原稿用紙や便箋を用いて遺言書を作成しても構いませんし、用紙の大きさがB5やA4でも構わないということになります。
また、遺言の内容の全てを一枚の紙に書き込むことは必ずしも必要ではなく、遺言書が数枚にわたることにも問題ありません。ただし、この場合には、数枚の遺言書が全体として一通の遺言書として作成されたものであると確認できることが必要であると考えられます。遺言書を編綴するか、契印を押すのが確実でしょう。
3.自筆証書遺言を修正したい場合
民法は遺言の加除訂正を認めていますので、必ずしも遺言書を作り直す必要はなく、既に作成した遺言書を訂正して済ますことが可能です。
ただし、民法は、他人による遺言の改ざんを防ぐために、遺言の加除訂正について厳格な方式を定めており、遺言の訂正にあたってはこの方式に従う必要があります。
具体的には、遺言書の中で訂正したい箇所に印を押し、訂正したい箇所の欄外か遺言書の末尾に、訂正した箇所を指示して訂正した旨を付記して署名する必要があります。
なお、判例の中には、明らかな誤記を訂正する場合には、民法の定める方式に従わなくとも訂正を有効としたものがあります。しかし、どの程度の訂正であれば、明らかな誤記を訂正する場合にあたるかが必ずしも明確ではありませんので、遺言書を訂正する場合には民法の定める方式に従って訂正するべきでしょう。
以上の通り、遺言を訂正するとなると、このような厳格な方式に従う必要がありますので、訂正箇所が多かったり、まるで違う内容になったりする場合には、初めからすべてを新しく書き直すのが無難であり、逆にその方が早いのかも知れません。
4.自筆証書遺言を作成したい場合は専門家に相談を
自筆証書遺言は法改正により方式が緩和されましたが、自分一人で作成すると内容や方式に不備が生じるおそれがあり、後に残された家族達に迷惑がかかってしまいます。そうならないためにも、遺書を書く際には、自筆証書遺言にするのか公正証書遺言にするのかなど、早い段階から弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
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