相続財産について
- 執筆者弁護士 山本哲也
目次
1.相続財産になるものと相続財産にならないもの
相続では預貯金以外にも相続財産になるもの、ならないものを判別したうえで相続するかどうかを判断することが重要です。どのような相続財産があるのかを把握しなければ不利益を被ったり、遺留分侵害額請求などの際にも正確な金額を把握することができません。
以下では紛らわしい相続財産に関して説明します。
不動産・現金・貴金属・預貯金・有価証券等
まず、次のものは相続財産となります。
- 土地、建物
- 現金
- 貴金属等の所有権
- 預貯金
- 有価証券(国債、手形等)
- 貸付金などの金銭債権
- 株式
また、株式については、法定相続分に応じて当然に分割されるものではなく、遺産分割が終了するまでは、相続人らによる共有の状態になることになります。
したがって、遺産分割によって株式を分けることが必要になります。
その前提として、まず、遺産としてどのような財産があるのかを把握すること、すなわち、遺産分割の対象となる財産を特定することが必要になります。
株式については、遺産の中にどこの株式会社の株式がどれだけあるのかを確認することが必要です。
次に、株式の価値を評価するという作業が必要になります。上場会社の株式など一般に取引されている株式については、その価値の評価はそれほど困難ではありませんが、取引相場のない非上場株式の場合、その価値の評価には困難が伴います。株式の価格について相続人間で合意できればそれほど問題はありませんが、この点に合意できない場合は、株価の鑑定が必要になる可能性があり、そうなると、紛争が解決するまで長い時間がかかってしまうだけでなく、経済的な負担も大きくなってしまいます。
2.のれん
「のれん」とは、その事業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、営業上の秘訣、これまで築き上げてきた得意先や取引先との関係などの事業に固有の事実関係であって財産的価値を有するもののことを指します。
「のれん」は、営業権と言われることもありますが、あくまで事実関係に過ぎず法的な権利ではありませんので、直接には相続の対象となるものではありません。
しかし、「のれん」は、事業の収益の源となるもので財産的価値を有しています。
したがって、相続人の誰かが、被相続人の事業を引き継ぐ場合、その相続人は「のれん」をも引き継ぎ、それにより収益をあげることになりますから、「のれん」の価値を考慮せずに遺産分割を行うと、被相続人の事業を引き継ぐ相続人と、それ以外の相続人との間で不公平が生じることになります。そのため、このような場合、「のれん」の価値を考慮した遺産分割を行う必要があります。
このように、「のれん」は直接には相続の対象となるものではありませんが、遺産分割にあたってその有する価値を考慮する必要があるという意味では、相続と全く無関係というわけでもありません。
3.在庫商品
被相続人が生前経営していた店に在庫として保管されていた商品も、それが被相続人の所有物である限りは、相続財産を構成することになります。
この場合、遺産分割にあたり、在庫商品をどうするかが問題となりそうです。
被相続人が生前経営していた店を閉めてしまうというのであれば、例えば、在庫商品を売却し、その売却代金を含めて遺産分割を行うという方法も考えられます。
これに対して、相続人の一人が、被相続人の経営していた店を引き継いで経営していくことになった場合、在庫商品についても、その相続人に相続させた方が合理的であるという場合が多いと思われます。この場合、遺産分割を行うに当たっては、在庫商品がどれくらいの価値を有するものかを確定することが必要になってきます。
なお、被相続人が事業を経営していた場合、相続財産には、在庫商品の他にも、原材料や部品、製造途中の製品、特許権等の知的財産権、機械設備等の動産、工場等の不動産が含まれる場合があり、遺産分割にあたってはこれらについても在庫商品と同様の問題があります。
4.葬儀費用や香典
葬儀費用
葬儀費用(通夜、告別式、遺骸の火葬などの葬儀に要する費用)は、相続開始後に生じた債務であり、相続財産に関する費用ともいえないものであるため、相続財産には該当せず、遺産分割の対象とはなりません。支出金額や分担に争いがあれば民事訴訟により解決することになります。
しかし、調停は話し合いの場であるので、当事者全員の合意があれば、葬儀費用を考慮して調停を成立させることは可能です。
香典
香典は、死者への弔意、遺族へのなぐさめ、葬儀費用など遺族の経済的負担の軽減などを目的とする祭祀主宰者や遺族への贈与であるため、遺産分割の対象とはなりません。
しかし、調停は話し合いの場であるので、上述の葬儀費用と同じく、当事者全員の合意により、香典を考慮して調停を成立させることは可能です。
なお、香典は、慣習上香典返しに充てられる部分を控除した残余につき葬儀費用に充てられますが、それでもなお香典に残余金が生じた場合は、残余金が葬儀主宰者に帰属すると解する見解と相続人に帰属すると解する見解があり、個別事情に応じてどのように解決を図るか考える必要があります。
5.借金など負の遺産
借金などの債務も原則として相続され、相続人に返済義務が生じます。
借金の存在を、被相続人が相続人に隠しているケースは多々あります。相続財産に借金が含まれることを知らずに相続してしまい、借金の存在が明らかになってから問題となるケースは少なくありません。
6.被相続人が生命保険に加入していた場合
この場合、生命保険金は相続財産にはあたらず、原則として、遺産分割の対象にはなりません。
相続の対象となるのは、相続開始時(すなわち被相続人の死亡時)に被相続人に帰属していた権利義務に限られます。
一方、生命保険金というのは、契約者が死亡したときに、保険会社が受取人として指定された者に対して生命保険契約に基づき支払う金員です。すなわち、受取人は、生命保険契約に基づき、自身の固有の権利として生命保険金の請求権を取得するのであり、保険金請求権を被相続人から承継するというわけではありません。
したがって、被相続人の妻が受取人となっている生命保険金については、相続財産にはあたらず、原則として遺産分割の対象にはならないということになります。
もっとも、生命保険金は一般的には相当高額になることから、これが常に遺産分割の対象とならないとすると、共同相続人の間で不公平を招くことも考えられます。そのため、一定の場合には、生命保険金請求権が特別受益に準じて持戻しの対象となるという形で(相続財産の一部について前渡しを受けていると評価されるということです)、被相続人の妻が生命保険金の受取人となっていることが遺産分割にあたり考慮されることがあります。
7.保険受取人が先に死亡していた場合の相続
生命保険について以前このような質問がありました。
私の父親が母親(父にとっての妻)を受取人にして生命保険に加入していたのですが、母親は三年前に死亡し、父親は死亡保険金の受取人を変更しないまま、先日亡くなりました。この場合、二人の子供である私は保険金を受け取ることができますか、という質問です。
結論から申しあげれば、この場合、質問者の方が保険金の受取人になると考えられます。
なぜなら、生命保険金の受取人(今回の場合、質問者の母親)が亡くなったにもかかわらず、保険金の受取人が変更されないまま、生命保険契約の契約者(今回の場合、質問者の父親)が亡くなられた場合、保険金の受取人とされていた方(今回の場合、質問者の母親)の「相続人の全員」が保険金の受取人となるとされており、質問者の方は、保険金の受取人とされていた者の相続人に当たるからです。
なお、質問者の方に兄弟姉妹がいる場合(すなわち、質問者の両親の間に他に子供がいる場合)、これらの方も、保険金の受取人とされていた方の相続人に当たりますので、保険金の受取人ということなります。この場合、兄弟姉妹はそれぞれ平等の割合で保険金請求権を取得することになります。
被相続人の財産を生前から相続人や同居者が管理していた場合には、その把握も比較的容易ですが、被相続人自身が財産を掌握していた場合は、さまざまな資料を手掛かりに財産調査を行わなければなりません。被相続人の財産の把握には、次のような方法が考えられます。
8.会社が従業員に保険金をかけていた場合
事案によりますが、保険金の全部または一部につき被相続人の遺族が受け取れる可能性はあります。
まず、この保険は契約当事者(従業員が所属する会社と保険会社)以外の者を被保険者(従業員)とするため、他人の生命の保険に該当します。したがって、被保険者(従業員)の同意がなければ効力を生じません(保険法38条)。
それを前提に、会社が保険金を受領した場合に、会社と従業員間で保険金を遺族に支払うべき合意が成立していれば、遺族は会社から生命保険金を受け取ることができます。そのような合意が成立していたと判断された事例としてパリス観光事件(広島高判平成10年12月14日)があり、合意が否定された事例として住友軽金属工業事件(名古屋高判平成14年4月26日)があります。
遺族への保険金の支払の合意が認められた場合、具体的な支払額が問題となります。この点については、会社は遺族に対して社内規定に基づく給付額を遺族に支払えば足りると判断された事例があります(住友軽金属工業事件・最判平成18年4月11日)。
9.相続財産を探す際のポイント
最後に上記の相続財産を探す際のポイントをご説明させていただきます。
- 被相続人が金庫を有していたり、銀行等の貸金庫を利用していた場合は、その中の保管書類等を整理し、財産を把握する。
- 被相続人が所得税の確定申告を行っていた場合は、申告内容から収入の基となる財産を把握する。また、確定申告時に「財産債務の明細書」(財産債務調書)を提出している場合は、その内容を参考にする。
- 預金通帳の出入記録を精査し、定期預金の利子、上場会社等からの配当金、証券会社や保険会社からの収受金があれば、その元本等となる財産を確認する。また、出金内容から借入金等の債務も調査する。
- 名刺ファイル等により、不動産関係、銀行・証券会社・保険会社関係の取引を想定し、これらに関連する財産の有無を調査する。
- 被相続人が記録していた日記帳や手帳等があれば、その記載内容から財産を把握する。
なお、相続財産の調査にあたっては、借入金や未払金等の債務、未納の公租公課のほか、被相続人が生前に行った財産贈与があれば、その内容も確認する必要があります。これらは、相続税の申告や遺産分割協議に際して重要な事項となります。
10.相続についての疑問は専門家に相談を
相続は、どの財産が相続財産になるかなどの複雑な問題が発生します。相続人が、ある財産は相続財産に含まれていないと思い込み、他の相続人に無断で消費したところ、実はその財産は相続財産に含まれるものであったというケースもあり得ます。そのような場合、相続をめぐる紛争がより深刻になる可能性があります。そうならないためにも、相続が開始してからなるべく早く弁護士などの専門家に相談し、問題の複雑化を防ぐことが重要です。
11.群馬、高崎で遺産相続・遺留分請求に強い弁護士なら山本総合法律事務所
群馬、高崎で相続トラブルを相談するなら、相続案件に強く群馬や高崎の地元の特性にも精通している弁護士を選びましょう。相続を得意としていない弁護士に依頼しても、スムーズに解決しにくく有利な結果を獲得するのも難しくなるためです。山本総合法律事務所の弁護士は、設立以来、群馬や高崎のみなさまからお悩みをお伺いして親身な対応をモットーとし、満足頂ける結果を提供し続けてまいりました。群馬、高崎にて遺産相続にお悩みの方がいらっしゃったら、ぜひとも山本総合法律事務所までご相談ください。