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相続放棄は兄弟まとめてすることはできますか?

亡くなった方の負債を引き継ぎたくないときに有効なのが、相続放棄です。兄弟全員で相続放棄をすれば、誰も借金を背負わずにすみます。

相続放棄は兄弟まとめてすることが可能です。まとめてすれば、必要書類が少なくてすむ、トラブルを回避できるなどのメリットがあります。

ただし、次順位の相続人がいるときは連絡する、保存義務が残る場合がある、いったんすると撤回できないといった点には注意しましょう。

今回は、相続放棄を兄弟でまとめてできるケース・できないケースや、まとめてするメリット・注意点などを解説しています。故人が借金を抱えていたなどの理由で相続放棄を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。

相続放棄を兄弟まとめてできるケース・できないケース

兄弟_相続放棄

相続放棄とは、遺産に属するプラス・マイナスいずれの財産についても、権利・義務を一切引き継がないとする方法です。被相続人(亡くなった人)が多額の負債を抱えていたとしても、相続放棄をすれば借金を背負わずにすみます。

相続放棄をするかは相続人が個々で判断できますが、裁判所での手続きが必要です。そもそも相続放棄をする・しないは自由であり、するとして手続きは別々にしても、全員まとめてでも構いません。

ただし、相続放棄ができないケースもあります。まずは、兄弟姉妹でまとめてできるケース・できないケースをご紹介します。

できるケース

相続放棄が同時にできるのは、同順位の相続人です。

そもそも相続人になる人の範囲は、以下のルールで決まります。

  • 配偶者(夫・妻)は必ず相続人になる。
  • 配偶者以外に以下の順位にしたがって相続人になる。

第1順位:子(既に死亡しているときは孫、ひ孫……)

第2順位:両親(既に死亡しているときは祖父母、曾祖父母……)

第3順位:兄弟姉妹(既に死亡しているときは甥・姪)

たとえば、被相続人に子(孫、ひ孫含む)がいないときは両親が、両親(祖父母含む)が全員亡くなっていれば兄弟姉妹が相続人になります。また、本来の相続人が相続放棄をしたときにも、次順位の相続人に相続権が移ります。

「兄弟」が一緒に相続人になるケースとしては、以下が考えられます。

  • 被相続人の「子」が複数いる(「子」として兄弟全員が第1順位の相続人になる)
  • 被相続人の「兄弟姉妹」全員が第3順位の相続人として相続権を得る

いずれについても、同順位の兄弟については全員まとめて相続放棄ができます。

【参考】相続放棄とは

できないケース

相続人が同順位でない場合は、同時には相続放棄ができません。

例として、以下のケースを考えます。

  • 被相続人には2人の子がいる
  • 被相続人の両親(・祖父母)は既に他界している
  • 被相続人の兄弟姉妹が3人いる

このケースでは、次のようになります。

①被相続人の「子」2人は、兄弟で同時に相続放棄ができる。

②「子」の相続放棄により相続権を得た3人の「兄弟姉妹」は同時に相続放棄できる。

①と②の相続放棄は、それぞれ「子」や「兄弟姉妹」として同順位であるため、まとめて同時にできます。しかし、①と②の相続放棄を全員でまとめてすることはできません。「子」は第1順位、「兄弟姉妹」は第3順位と相続順位が違うためです。

したがって、このケースで関係者全員が相続放棄をするには①→②の順で行います。①の「子」の相続放棄が終わっていない段階で、②の「兄弟姉妹」の相続放棄はできません。

 

他にも、一般的に相続放棄ができないケースがあります。

被相続人の死亡前

被相続人が亡くなる前には、相続放棄はできません。

理由としては、死亡前には十分に相続財産を調査できず適切な判断が難しい、他の人に強制されるおそれがあるといった点が挙げられます。別々であれ、全員まとめてであれ、被相続人が亡くなってからしか相続放棄はできません。

3ヵ月の期限を過ぎた

相続放棄の裁判所への申立ては「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3 か月以内にしなければなりません(民法915条1項)。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは被相続人が死亡した事実と、自分が相続人になった事実の両方を知った時です。先順位の相続人の相続放棄により相続権を得たときは、「被相続人が死亡した事実」だけでなく、「相続放棄の結果として自分が相続人になった事実」を知ってから3 か月のカウントが始まります。

カウントが始まってから3 か月以内に裁判所に申立てないと単純承認をしたとみなされるため、借金を含め財産を引き継がざるを得ません(民法921条2号)。

期間は相続人ごとに別々にカウントされます。死亡の事実を知ったタイミングにズレがあると「兄は相続放棄できるが、弟はできない」といった事態も生じ得ます。

期限を過ぎないよう、手続きは早めにしてください。3 か月以内の判断が難しい場合には、裁判所に申立てれば期限の延長も可能です。

遺産に手をつけた

遺産を「処分」したときも単純承認をしたとみなされ、相続放棄はできません(民法921条1号)。「処分」とは、簡単に言えば「手をつける」ことです。

たとえば、勝手に不動産を売却する、預金を引き出して自分の生活費に使うといった行為をすれば、相続放棄ができなくなります。くれぐれも注意してください。

期限のカウントと同様に、遺産に手をつけたかどうかの判断も、相続人ごとに別々になされます。

【参考】相続放棄で注意すべきこと

相続放棄を兄弟まとめてするメリット

相続放棄_兄弟_メリット

 

相続放棄をするかどうかは、個々の相続人が自分で判断できます。必ずしも全員が相続放棄をする必要はありません。裁判所での手続きも、別々でも、兄弟まとめてでも構いません。

ただし、全員まとめてすると以下のメリットがあります。

必要書類が少なくてすむ

全員まとめて手続きをすれば、共通する書類を重ねて出す必要がなく、提出書類が少なくてすみます。

被相続人の「子」として相続するときの一般的な必要書類は以下の通りです(参考:相続の放棄の申述|裁判所

  • 申述書(書式・記入例
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 放棄する人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

「兄弟姉妹」として相続するときには、必要な戸籍の種類が増加します。

全員共通する書類については1通ですむため、まとめてすれば書類を取得する費用や手間を削減できます。

全員で負債を免れるためトラブルを防げる

兄弟でまとめて相続放棄をすれば、全員が被相続人の負債を引き継がずにすみます。

反対に一部の相続人だけが相続放棄をしても、効果は他の相続人には及びません。放棄をしていない相続人は、負債を引き継がなければなりません。むしろ借金が集中し、大変な思いをします。

誰かが「多額の借金がわかったから自分だけ相続放棄する」と身勝手な行動をとると、他の兄弟から「なぜ教えてくれなかったんだ」と恨みを買い、トラブルになるおそれがあります。

情報を共有して全員まとめて相続放棄の手続きをすれば、誰も借金を背負わずにすみ、トラブルにもなりません。個別に手続きをしても効果は同じですが、兄弟でまとめて行えばより確実です。

【参考】相続放棄をすれば親の借金もなくなりますか?

相続放棄を兄弟まとめて弁護士に依頼するメリット

相続放棄の手続きは、弁護士に依頼できます。弁護士に依頼すれば確実に手続きができ、書類の収集・作成の手間も減らせます。

とはいえ、弁護士費用は気になるでしょう。兄弟まとめて弁護士に依頼すると、個々で別の弁護士に依頼するよりも、1人あたりの費用が安くすむ場合が多いです。法律相談が1度にまとめられるほか、実費・手数料なども抑えられます。同じ弁護士に頼んでいるので、手続きもスムーズに進むはずです。

相談をすれば、そもそも相続放棄すべきか、気をつける点はあるかといったアドバイスも受けられます。弁護士に相続放棄を依頼する際には、兄弟まとめての依頼をご検討ください。

相続放棄の注意点

相続放棄の注意点

相続放棄をする際には、以下の点に注意してください。

次順位の相続人に伝える

兄弟まとめて相続放棄をした結果として次順位の相続人に相続権が移る場合、相続放棄した事実を伝えておくようにしましょう。

たとえば、子全員が相続放棄をした結果、(被相続人の)兄弟姉妹に相続権が渡るケースは多いです。兄弟姉妹も続いて相続放棄をしないと、負債を引き継ぐ羽目になります。

相続放棄をした事実は、自動的には通知されません。連絡を怠ると、後から「なぜ教えてくれなかったんだ」などとトラブルになるおそれがあります。たとえ普段は疎遠であったとしても、次順位の相続人がいるときは、相続放棄をした事実や遺産の内容を伝えておくようにしましょう。

保存義務が残る場合がある

相続放棄をした後に、相続財産の保存義務が残るケースがあります。

法律上、放棄時に遺産を「現に占有している」人は、相続財産清算人等に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって財産を保存しなければなりません(民法940条)。

「現に占有している」とされるのは、たとえば被相続人が所有していた自宅に相続人が住んでいるケースです。相続放棄をしたとしても、当面は家の管理を続けなければなりません。家の壁が崩れて通行人にケガをさせたケースなど、義務を怠ると損害賠償責任を負う可能性があります。

保存義務が残る場合には「放棄したから終わり」と考えないようにしましょう。

撤回できない

いったん相続放棄をすると、3か月の期間内でも撤回できません(民法919条1項)。

後からプラスの財産が発見されて「やっぱり相続したい」と考えても、ひとたび放棄の手続きをしていれば不可能です。相続放棄をする前に、財産を十分に調査し、本当に放棄してもいいのかを慎重に検討してください。

代襲相続は発生しない

相続放棄をした際には、代襲相続は発生しません。

代襲相続とは、相続人になるはずの人が既に亡くなっているなどの理由で相続できないときに、子が代わりに相続権を引き継ぐ制度です。たとえば、「子」が死亡しているときに孫、「兄弟姉妹」が死亡しているときに甥・姪が相続するケースがあります。

代襲相続は、被代襲者(代襲相続される人)が相続人であることを前提になされるものです。しかし、相続放棄をしたときは、その人は初めから相続人でなかったとみなされます(民法939条)。したがって、代襲相続は発生しません。

「相続放棄をした後は、自分の子が代襲相続する」と勘違いしている方もいます。間違えないようにしてください。

【参考】代襲相続とは

まずは弁護士にご相談ください

ここまで、相続放棄を兄弟まとめてできるケースやメリット・注意点について解説してきました。

単純承認とみなされるケースでなければ、兄弟まとめての相続放棄が可能です。まとめてすれば、必要書類の削減やトラブル防止につながります。財産調査を十分にしたうえで放棄を決め、手続き後も次順位の相続人への連絡や、義務があるときの財産管理を怠らないようにしてください。

 

兄弟まとめての相続放棄をお考えの方は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。

当事務所は、群馬県内でも規模が大きい弁護士事務所のひとつです。群馬・高崎に密着して、地域の皆様から相続に関する数多くの相談を受けて参りました。相続放棄につきましても、そもそもすべきか否か、何に気をつけるべきかなどをアドバイスいたします。裁判所での手続きもお任せください。

相続放棄の期限は3か月しかありません。「亡くなった人の借金を背負いたくない」「兄弟でまとめて相続放棄できないか」とお悩みの方は、すぐにお問い合わせください。

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この記事を書いた人

代表弁護士 山本哲也

弁護士法人山本総合法律事務所

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