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相続不動産の評価の方法は?
- 執筆者弁護士 山本哲也
相続財産の中に不動産があるときは、その不動産の価値をどのような方法で評価するかが非常に重要な問題となります。なぜなら、相続不動産を評価する方法は1つではなく、評価方法によって金額が大きく異なってくることが多いからです。
法定相続分に従って遺産を分けたとしても、不動産の評価額次第で各相続人の取り分が変動するため、評価方法をめぐってトラブルになることが少なくありません。
今回は、相続不動産を適正に評価し、相続トラブルを解決する方法について解説します。
目次
相続や遺産分割における不動産評価の重要性
相続不動産の評価は、以下の3つの場面で非常に重要な意味を持ちます。
遺産分割における重要性
公平な遺産分割を実現するためには、相続不動産の価値を適正に評価することが不可欠です。
例えば、被相続人(亡くなった方)の遺産として、自宅の土地・建物と預貯金3,000万円があったとしましょう。相続人は長男と二男の2人だとします。法定相続分は、それぞれ2分の1ずつです。
話し合いの結果、被相続人と同居してきた長男が自宅を相続することとし、二男に対して代償金を支払うことになったとしましょう。
この例のように、1人の相続人が相続財産を単独で取得する場合に、公平な遺産分割を実現するために、法定相続分を超える金額を他の相続人へ支払う分割方法のことを「代償分割」といいます。
相続財産を取得した相続人が支払うお金のことは「代償金」といいます。
代償金の額を計算する際、自宅の評価額が3,000万円だとすると、遺産総額が6,000万円となるため、長男と二男の相続分は3,000万円ずつとなります。この場合、長男が自宅を単独で取得する代わりに、二男が預貯金を全額取得すれば、公平な遺産分割が実現します。
しかし、自宅の評価額が5,000万円となれば、遺産総額が8,000万円となることから、長男と二男の相続分は4,000万円ずつとなります。この場合、自宅を単独で取得した長男は遺産を受け取りすぎになるため、差額の1,000万円を二男に支払わなければなりません。
このように、不動産の評価額によって遺産分割の結果が異なってきます。この例では、長男は自宅の評価額「3,000万円」を主張するのに対して、二男は「5,000万円」を主張する可能性が高く、双方が譲歩しなければトラブルに発展するでしょう。
遺留分侵害額請求における重要性
上記のケースで、被相続人が「すべての遺産を長男に譲る」という遺言書を作成していたとしましょう。
兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分があり、このケースで二男は遺産総額の1/4について遺留分を主張できます。
遺言によって遺留分が侵害されているので、二男は長男に対して、遺産総額の1/4に相当する金銭の支払いを請求できます。この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます。
実際に二男が請求できる金額は、自宅の評価額が3,000万円だとすれば1,500万円(遺産総額6,000万円×1/4)、自宅の評価額が5,000万円だとすれば2,000万円(遺産総額8,000万円×1/4)となります。
このように、遺留分侵害額として請求できる金額も、不動産の評価額によって変わります。
相続税の申告・納付における重要性
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告・納付が必要です。
相続税は遺産総額に対して課税されるため、やはり不動産の評価は重要な意味を持ちます。
不動産を評価する方法
相続不動産を評価する方法には、大きく分けて「実勢価格を基準とする方法」と、「公的な指標を基準とする方法」の2種類があります。
以下では、遺産分割で問題となる2種類の方法について解説した後、相続税を計算するための不動産評価方法もご説明します。
実勢価格を基準とする方法
実勢価格とは、いわゆる時価(市場価格)のことです。遺産分割や遺留分侵害額請求では、遺産が「いくらで売れるのか」という財産的価値が問題となりますので、実勢価格を基準として評価する方法が適正といえます。
ただし、実勢価格は誰が評価するかによって幅が生じることが多いというデメリットがあります。
不動産業者に簡易査定を依頼するのも1つの方法ですが、どの業者に依頼するかによって査定額が大きく異なることが多いです。
適正に評価するためには不動産鑑定士に鑑定を依頼することが望ましいですが、一般的に数十万円の費用がかかるという問題があります。かつ、どの不動産鑑定士に依頼するかによって、やはり評価額が異なることもあるので注意が必要です。
公的な指標を基準とする方法
官公署が算定した公的な指標を基準とすれば、「誰に依頼するかによって評価額が異なる」という問題を回避できます。
遺産分割や遺留分侵害額請求の場面で、相続税評価額を基準とすることもあります。
ただし、相続税評価額は一般的に実勢価格よりも低いことが多いので、注意が必要です。概ね、土地は実勢価格の8割程度、建物は実勢価格の7割程度が相続税評価額の目安となります。
相続税を計算するための不動産評価方法
相続税を計算するための不動産評価方法は、相続税評価額を基準とする運用がなされていますので、評価方法で悩む必要はありません。
土地の評価方法は、路線価地域にある土地については路線価方式によることとされており、次の計算式で評価額を算出します。調整率とは、土地の形状などの条件に応じて路線価を補正するために用いられる数値のことです。
相続税路線価×調整率×土地の面積 |
路線価が定められていない地域にある土地については倍率方式によることとされており、次の計算式で評価額を算出します。倍率とは、路線価のない土地の評価を適正に行うために用いる数値のことであり、地域ごとに定められています。
固定資産税評価額×倍率 |
建物については、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額として適用されます。
【参考】不動産がある相続で遺留分を請求したい!不動産評価のポイント
遺産分割における不動産評価
不動産の評価方法について解説してきましたが、遺産分割においては、相続人全員が納得するのであれば、どのような方法で不動産を評価しても構いません。
ただし、トラブルを回避するためには評価額をうやむやにしたまま遺産を分けるのではなく、どの評価方法をとるのかを話し合って決めるべきです。
実務上は、不動産業者の簡易査定によることも多いです。ただし、業者ごとに査定額のバラツキが大きいため、各当事者が信頼できる業者に依頼し、複数の簡易査定書の平均額を評価額とする、と決めておいた方がよいでしょう。
より簡易的な評価方法として、相続税評価額をそのまま適用したり、「相続税評価額×1.25(~1.5程度)」(相続税評価額は実勢価格の7~8割程度であるため)を評価額とすることもあります。
当事者だけでは評価方法を決定できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停で話し合うことになります。調停委員を交えて話し合っても決まらない場合には、家庭裁判所の審判で決めてもらわなければなりません。
家庭裁判所は、遺産分割における不動産評価については実勢価格を基準として行います。評価方法について当事者間に争いがある場合には、裁判所が選定した不動産鑑定士に鑑定を嘱託し、その鑑定額が採用されます。
【参考】不動産の評価方法 ~遺産相続で知っておくべき知識~
【参考】不動産の評価額が問題になったケースで、調停により法定相続分どおりの預貯金を取得できた事例
不動産を含む相続・遺産分割は弁護士に相談を
相続不動産の評価方法をめぐって相続人同士がもめるケースは、珍しくありません。
最終的には家庭裁判所の審判を通じて鑑定を嘱託することによって解決できますが、不動産鑑定士の鑑定には通常、数十万円の費用がかかることにも注意が必要です。
なるべくなら、相続人同士の遺産分割協議で合意による解決を図る方が望ましいといえるでしょう。
そのためには、早めに弁護士を間に入れて話し合うことが有効です。弁護士は法律の専門家としての立場から冷静に交渉しますし、意見が対立する当事者に対しては、論理的に説得を図ります。結果として、早期かつ円満な解決が期待できます。
不動産を含む相続・遺産分割でお困りの方は、トラブルが深刻化する前に、お早めにご相談ください。当事務所の弁護士が詳しい状況をお伺いし、最善の対処方法をアドバイスいたします。