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不動産がある相続で遺留分を請求したい!不動産評価のポイント
- 執筆者弁護士 山本哲也
生前贈与や遺言により不動産が引き継がれると、相続人の遺留分を侵害するケースがあります。特に不動産が遺産の大半を占めるときには、遺留分をめぐる争いに発展しやすいです。
遺留分侵害額請求をする際には、不動産評価がポイントになります。価値が高くなる評価方法を採用すれば、受け取れる金額が大きくなります。遺留分請求をする際には、不動産評価についての知識が欠かせません。
本記事では、遺留分を請求する際の不動産評価について解説しています。他の人に遺産の不動産が渡り、遺留分の請求を検討されている方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
不動産がかかわる相続での遺留分
不動産が関係する相続では、遺留分の侵害が問題になるケースがあります。
遺留分とは、法律上相続人に認められている、最低限の遺産の取り分です。生前贈与や遺言により遺産の大半が特定の人に渡っても、遺留分を有している相続人が「遺留分侵害額請求」をすれば、一定割合の金銭を受け取れます。
遺留分が認められているのは、遺族の今後の生活を保障すべき点や、今まで被相続人の財産形成に貢献してきた点に配慮するためです。配偶者・子・直系尊属(両親)は、相続人になったときは遺留分を有します。これらの関係にある人に比べ、一般的に兄弟姉妹は被相続人とのつながりが薄いと考えられるため、相続人になっても遺留分は認められません。
個々の相続人が有する遺留分の割合は、多くの場合で法定相続分に1/2を掛ければ求められます。ただし、親(直系尊属)のみが相続人となるときは、法定相続分に1/3を掛け合わせます。相続人のパターン別の遺留分割合は、以下の通りです。
法定相続人 | 遺留分割合 |
配偶者のみ | 配偶者:1/2 |
配偶者+子 | 配偶者:1/4、子:1/4(※) |
子のみ | 子:1/2(※) |
配偶者+親(直系尊属) | 配偶者:1/3、親:1/6(※) |
親(直系尊属)のみ | 親:1/3(※) |
配偶者+兄弟姉妹 | 配偶者:1/2、兄弟姉妹:なし |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹:なし |
※同一順位の相続人(子や両親)が複数いるときは人数に応じて均等に割る(例:相続人が子2人のみのときは1/4ずつ)
上記の割合に遺産総額を掛ければ、遺留分の金額を求められます。厳密には、遺留分計算のときには以下の式で算出した財産額を用います。
遺留分を算定するための財産
=相続開始時の積極財産(プラスの財産)+生前贈与額-債務額
たとえば、以下のケースで考えます。
- 夫が妻と子2人(長男・長女)を残して亡くなった
- 死亡時の積極財産:2000万円
- 夫は長男に6000万円分の生前贈与をしていた
- 債務:なし
このケースで妻と長女が長男に請求できる遺留分は、次のように計算します。
【遺留分計算の対象になる金額】
2000万円+6000万円=8000万円
【遺留分割合】
妻:1/2×1/2=1/4、長女:1/4×1/2=1/8
【遺留分の金額】
妻:8000万円×1/4=2000万円、長女:8000万円×1/8=1000万円
遺留分を有する相続人は、「遺留分侵害額請求」を通じて金銭を請求できます。
かつては「遺留分減殺請求」という名称であり、贈与された財産そのものの返還を請求できました。しかし、不動産が贈与されたときに遺留分減殺請求をすると共有状態になってしまい、トラブルの元になるケースがみられました。
そこで法改正がなされ、2019年7月1日以降に発生した相続については金銭を請求する権利となっています。また、相続人に対する生前贈与は、死亡前10年以内になされたものに限り、遺留分を算定するための財産に含まれるとのルールになりました。
【参考】遺留分
【参考】遺留分と遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)について
【参考】【弁護士が解説!】相続の遺留分とは?
遺留分において不動産評価が重要な理由
遺留分侵害額請求をする際には、不動産をどのように評価するかが重要になります。評価方法によって不動産の評価額は大きく異なり、請求できる金額も変わるためです。
たとえば、以下のケースで考えます。
- 父が亡くなり、相続人は長男と次男の2人(母は既に他界)
- 遺産は自宅不動産と預貯金4000万円のみ
- 父は「すべての財産を長男に相続させる」との遺言を残していた
- 生前贈与や負債は無し
- 次男は長男に対し、遺産全体の1/4にあたる遺留分を請求したい
- 不動産の評価額について、長男は4000万円、次男は6000万円と主張している
このケースでは、不動産の評価額によって、次男が受け取れる遺留分額が大きく変わります。
【長男の主張】
不動産の評価額は4000万円であり、全体の遺産額は預貯金と合わせて8000万円であるため、遺留分額は8000万円×1/4=2000万円
【次男の主張】
不動産の評価額は6000万円であり、全体の遺産額は預貯金と合わせて1億円であるため、遺留分額は1億円×1/4=2500万円
このように、特に不動産が遺産全体に占める割合が多いケースでは、評価額によって請求できる遺留分額が大きく変わります。不動産の評価が重要であるとお分かりいただけるでしょう。
【参考】不動産の評価額が問題になったケースで、調停により法定相続分どおりの預貯金を取得できた事例
【参考】不動産の遺産分割方法3種類
様々な評価方法
以下の通り、不動産には様々な評価方法があります。
固定資産評価額
固定資産評価額は、固定資産税を課税する際の基準となる価格です。時価の7割程度の金額とされています。評価額が低くなるため、遺留分を請求された側は固定資産評価額を用いるよう主張しやすいです。
簡単にわかるため便利ですが、実勢価格とはかけ離れているため、遺留分を請求する側としては不利になります。また、3年に1回しか見直されないため、価格の変動が大きい場合には時価との差がより出やすいです。
路線価(相続税評価額)
路線価は、相続税や贈与税を課税する際の基準となる価格です。時価の8割程度とされています。
固定資産税評価額と同様に明確であり、毎年評価されるため変動を反映しています。しかし時価よりは低く、遺留分を請求する側にとっては不利です。
公示地価・基準地価
国が示す「公示地価」や都道府県が示す「基準地価」は、土地取引の目安として発表されている価格です。時価に近い額とされています。
それぞれ毎年公表されており、時価に近い点で遺留分を請求する側にとっては有利な価格です。ただし、限られた地点しか公表されておらず、実際に問題となっている土地の評価をする際には修正が必要になります。
実勢価格
実勢価格は、実際に取引される際の価格(時価)です。公平な価格ではありますが、実際に取引されていない以上、不動産業者の査定などを通じて知る必要があります。
ただし、査定した人によって金額が変わる点が問題です。調停の場では不動産鑑定士による鑑定を行う場合もありますが、少なくとも数十万円の費用を要します。
以上の通り、不動産には様々な評価額があり、どの基準を用いるかが重要になります。遺留分を請求する側としては評価額が高くなるようにしたいところですが、双方の主張が対立して話し合いがまとまらないケースも多いです。
不動産を含む相続・遺産分割は弁護士に相談を
ここまで、不動産がある相続での遺留分請求について解説してきました。
生前贈与や遺言により遺産の大半が特定の人のものになったときは、兄弟姉妹以外の法定相続人は遺留分を請求できます。請求できる金額を左右するため、不動産の評価額は重要です。しかし、いかなる方法を用いるかを当事者で決めるのは難しく、激しい争いに発展する場合もあります。
不動産を含む相続・遺産分割は、弁護士法人山本総合法律事務所までご相談ください。
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「遺留分を請求できるかわからない」という方でも構いません。不動産を含む相続・遺産分割に直面した方は、お気軽にお問い合わせください。