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遺産分割が進まない理由や対処法について
- 執筆者弁護士 山本哲也
相続が発生したときに相続人が複数いたら、「遺産分割」を行う必要があります。
しかし遺産分割はスムーズに進むとは限りません。相続人同士で遺産分割協議を行う際、意見が合わずにもめてしまうケースも多々あります。
今回は遺産相続が進まない場合によくある理由や、遺産分割がまとまらないときの対処方法を弁護士がお伝えします。
遺産分割協議や調停でトラブルになっている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
1.遺産分割とは
遺産分割とは、法定相続人が遺産を分け合うことです。
法律上、相続が発生した場合の法定相続人と法定相続分は決まっていますが、どの相続人がどの遺産を受け取るべきかなどの具体的な遺産分割方法までは指定されていません。
たとえば配偶者が自宅の土地建物を相続する、長男がA銀行の預貯金を獲得する、などの具体的な遺産分割方法は当然には決まらないのです。
法律で定められていないため、具体的な遺産分割方法については相続人同士が話し合って決めなければなりません。話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の審判で審判官に遺産分割方法を指定してもらう必要があります。
【参考】遺産分割の流れと方法 |
2.遺産分割の3つの手続き
遺産分割には以下の3種類の手続きがあります。
2-1.遺産分割協議
遺産分割協議は、すべての相続人が参加して遺産分割の方法を話し合う手続きです。遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。1人でも抜けると遺産分割協議の結果が無効になってしまうので注意しましょう。
また遺産分割協議をまとめるには、相続人全員が合意しなければなりません。1人でも反対するとその内容では遺産分割をまとめられません。
遺産分割協議が成立すると、遺産分割協議書を作成する必要があります。適切な方法で作成しないと相続登記や預貯金払い戻しなどができなくなるので、遺産分割協議書は正しい作成方法を知った上で慎重に作成しましょう。
【参考】遺産分割協議のポイント |
2-2.遺産分割調停
遺産分割調停は、すべての相続人が参加して家庭裁判所で遺産分割の方法を話し合う手続きです。遺産分割調停にも相続人全員が参加しなければならず、調停を成立させるには相続人全員が合意する必要があります。
ただ調停の場合、家庭裁判所の調停委員が間に入ってくれるので、もめている当事者同士が直接話をする必要がありません。また調停委員会から調停案(和解案)の提示を受けられるケースも多く、相続人全員がその案に合意すれば調停をまとめられます。
他の相続人ともめてしまった場合には、有効な解決方法となります。
【参考】遺産分割調停のポイント |
2-3.遺産分割審判
遺産分割審判は、家庭裁判所の審判官(裁判官)が遺産分割の方法を決定する手続きです。協議や調停と異なり、相続人全員が合意する必要はありません。
また遺産分割調停が決裂すると自然に遺産分割調停に移行するので、当事者(相続人)がわざわざ別途、遺産分割審判を申し立てる必要もありません。
遺産分割審判になると、審判官が遺産分割方法を指定するので当事者が合意しなくても解決できるメリットがあります。ただし個々の相続人が納得できる解決方法が提示されるとは限らないのがデメリットです。
審判は基本的に書面による当事者の主張によって進められます。審判を有利に進めたいなら、法律的に意味のある主張を書面で行い立証活動を行わねばなりません。専門知識が必要なので、弁護士に依頼するのが得策です。
3.遺産分割の4つの方法
遺産分割には、以下の4種類の方法があります。
遺産分割を行う際には、以下のいずれかの方法を選択しなければなりません。
3-1.現物分割
現物分割は、遺産をそのままの形で分割する方法です。
たとえばA不動産とB不動産があって子ども2人(長男と次男)が相続人となる場合、長男がA不動産を取得して次男がB不動産を取得すれば現物分割できます。
土地の場合、分筆してそれぞれの相続人が土地を相続する方法もあります。
3-2.代償分割
代償分割とは、特定の相続人が不動産などの遺産を取得し、他の相続人へ代償金を支払う方法による遺産分割です。
たとえば3000万円の価値のある不動産があって長男と次男と三男が相続するとしましょう。この場合、長男が不動産を取得して次男や三男にそれぞれ1000万円ずつ払うのが代償分割の方法です。
3-3.換価分割
換価分割は、遺産を売却して売却金を分け合う遺産分割方法です。たとえば3000万円の不動産があって子ども3人が相続するケースにおいて、不動産を売却して経緯が300万円かかったとしましょう。このとき子ども3人が900万円ずつ受け取るのが換価分割の方法です。
ただし換価分割すると資産が失われるので、将来において不動産などから収益を受けることができなくなります。また売り急ぐと低価格でしか売却できず経済的に損をする可能性もあります。
換価分割する場合でも、できるだけ高く売りたいなら急ぎすぎずに慎重に対応しましょう。
3-4.共有分割
共有分割とは、遺産を相続人同士の共有状態にする方法です。
たとえば不動産があって子ども3人が相続する場合、相続人がそれぞれ3分の1ずつの持分を取得する場合などです。
相続人同士でもめてしまってすぐには遺産分割方法を決められない場合などには、共有分割を選択すべき状況もあり得ます。
ただし共有分割をしても、トラブルの先送りにしかなりません。いずれは共有物分割請求を行って財産を分割しなければならないためです。
資産を有効活用するためにも、共有分割はおすすめしません。できれば共有分割の方法はとらず、現物分割、代償分割、換価分割のいずれかの方法で遺産を分割してしまいましょう。
【参考】相続不動産を分けずに共有にするリスク |
4.遺産分割がまとまらない場合によくある理由
相続人同士で遺産分割協議をしても、まとまらないケースが多々あります。
以下では遺産分割でもめてしまう場合によくある理由をお伝えします。
4-1.遺産の分け方で意見が対立する
まずは相続人同士で、遺産の分け方の点で意見が対立する事例がよくあります。
1人の相続人は「現物分割で遺産を取得したい」と希望していても、他の相続人は換価分割を希望する場合などです。
遺産の分け方で意見が対立した状態では、遺産分割をまとめられません。
4-2.相続人同士が疎遠、仲が悪くて話がまとまらない
相続人同士の関係性が悪く、遺産分割協議がまとまらないケースもよくあります。
たとえば相続人同士の仲が悪いケースもありますし、相続人同士が疎遠で連絡を取りづらいケースもあります。
遺産分割協議には相続人が全員参加しなければならないので、仲の悪い相続人や連絡を取りづらい相続人を外すわけにはいきません。
相続人同士で折り合いが悪かったり、一部の相続人と連絡を取れなかったりする状態が続くと、遺産分割協議は進められない可能性が高いといえるでしょう。
4-3.特別受益で意見が対立する
相続人の中に「特別受益」を受けた人がいると、遺産分割協議がまとまりにくくなる傾向があります。特別受益とは、贈与や遺贈によって特別に受けた利益をいいます。
たとえば生前に高額な財産の贈与を受けた相続人や遺贈によって高額な資産を遺贈された相続人がいると、特別受益が認められます。
特別受益がある場合、他の相続人との公平のため、その相続人の遺産取得割合を減らす計算をしなければならないのが原則です。この計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。
ただ他の相続人が特別受益の持戻計算を適用しようとしても、受益者となった相続人が拒否するケースが少なくありません。贈与や遺贈の対象となった財産の評価額で揉めるケースも多々あります。
相続人の中に特別受益を受けた人がいると遺産分割協議でもめてしまいがちなので、特に注意深く対応しましょう。
【参考】特別受益とは |
4-4.献身的に介護した相続人がいる
相続人の中に被相続人を献身的に介護した人がいると、遺産分割協議でトラブルになる可能性が高まります。
献身的に介護した相続人には「寄与分」が認められる可能性があるためです。寄与分とは、遺産の維持や形成に特別な貢献をした相続人に認められる多めの遺産取得割合です。つまり献身的に介護をした相続人などがいる場合、その相続人は寄与分による多めの遺産取得を主張できます。
ただし、ある相続人から寄与分の主張が行われると他の相続人が否定するため、トラブルになりやすい傾向があります。
【参考】寄与分とは |
4-5.前婚の際の子どもが遺産分割協議に参加する
被相続人が再婚している場合にも遺産分割に関するトラブルがよく起こります。
この場合、前婚の際に生まれた子どもも相続人となって遺産分割協議に参加しなければならないからです。
前婚の際の子どもと死亡時の家族が一緒になって話し合いを進めると、お互いの立場や考え方が違うのでトラブルにつながりやすくなります。
たとえば死亡時の家族としては「前婚の際の子どもに遺産を与えたくない」と考える場合もありますが、前婚の際の子どもは「法律上認められる権利なので当然遺産を受け取りたい」と考えているケースがよくあります。
【参考】相続の配分について(離婚した後の元配偶者と子どもの相続順) |
4-6.養子と実子がいる
被相続人に養子と実子の両方がいる場合にも、遺産分割でトラブルが起こりやすくなります。
法律上、養子でも実子でも同じだけの相続権が認められます。
しかし実子としてはそのことに納得できないケースも少なくありません。「実子が養子より多めに遺産を取得すべき」と主張してトラブルになってしまうおそれがあります。
【参考】養子に相続はできるのでしょうか? |
4-7.認知された子どもが登場する
被相続人に認知された子どもがいる場合にも、遺産分割協議がトラブルになりがちです。
特に死亡時の家族が婚外子の存在を知らなかった場合、大きなショックを受けてしまうケースも少なくありません。「認知された子どもには遺産を渡したくない」と考える方もいます。
しかし認知された子どもにも婚姻時に生まれた子どもと同等の相続権が認められます。
認知された子どもの側からすると、法律上認められた当然の請求を行うだけであり、結果として他の相続人ともめてしまうケースが少なくありません。
4-8.遺産の評価方法で意見が対立する
不動産などの評価が必要な相続財産がある場合には、評価方法について相続人同士の意見が対立するケースが多々あります。
不動産の評価方法には時価による評価方法や路線価などがあり、一律ではありません。時価についても「相場」しか出ないので、詳細な金額については相続人同士が話し合って合意する必要があります。
たとえば不動産の代償分割を行う場合には不動産の評価が必須です。このとき、代償金を払う相続人はなるべく不動産の価値を低く見積もりたいと思いますし、代償金を受け取る相続人はなるべく不動産の価値を高く見積もりたいと考えるでしょう。
相続人同士で不動産の評価方法について合意できないと、いつまで経っても遺産分割の話を先に進められません。
【参考】不動産の評価方法 ~遺産相続で知っておくべき知識~ |
4-9.遺産の範囲で意見が合わずもめてしまう
遺産の範囲がどこまでかで意見が合わず、もめてしまうケースもよくあります。
たとえばある相続人が相続財産である現金や預貯金を隠し持っていると疑われる場合などです。
「遺産を隠しているのではないか?」と主張される相続人は財産の存在を否定し、他の相続人は「遺産の中に隠されている現預金も含めるべき」と主張するので、いつまで経っても話が平行線になってしまいます。
4-10.相続人の1人が遺産を独り占めしようとして対立する
相続人のうちの1人が遺産を独り占めしようとして対立するケースもよくあります。
たとえば子ども3人が相続人となり、長男が「自分は家を継ぐのですべての財産を相続すべき」と主張する場合などです。
法律上、長男だからといってすべての遺産を相続できるわけではありません。他の相続人は納得しないケースが多く、独り占めしようとする相続人との間でトラブルになってしまいます。
【参考】遺言書がなく、一部の相続人が遺産を独占しようとしていたものの、協議により代償金の支払を受けた事例 |
4-11.代償金を払えなくてもめる
代償分割する場合、遺産を取得しようとする相続人が代償金を払えずにもめてしまうケースがあります。
代償分割を行うには、相続財産を取得する相続人が他の相続人へ代償金を払わねばなりません。ところが代償金を払えないのに代償分割を希望する相続人もいます。
たとえば長男が現在居住している実家の不動産の取得を望んでいるにもかかわらず、代償金を支払う資力がない場合などです。
この場合、他の相続人としては換価分割などの他の遺産分割方法を希望して、意見が合わずにもめてしまう可能性が高まります。
5.遺産分割をスムーズに進めるためのポイントやもめたときの対処方法
遺産分割でもめてしまった場合どのようにして解決すれば良いのでしょうか?
以下で遺産分割をスムーズに進めるためのポイントやもめてしまったときの解決方法をお伝えします。
5-1.法律の規定内容を知る
まずは各相続人が、法律による遺産分割方法の規定内容を知ることが重要です。
たとえばそれぞれの法定相続人にどの程度の法定相続分が認められているかを全員が把握していれば、「自分が遺産をすべて受け取りたい」などの無茶な主張をする相続人は現れにくいでしょう。
特別受益や寄与分についてのルールを知っていれば避けられるトラブルも多々あります。
遺産分割をスムーズに進めるためにも、相続人全員が相続にかかわる法律について、最低限の知識を身につけておきましょう。
【参考】相続の基礎知識 |
5-2.相手の立場を考える
遺産分割をスムーズに進めるには、相手の立場に立って考えることも重要です。
たとえば前婚の際の子どもと死亡時の家族が相続人となる場合、なかなか相手の立場には立ちにくいものです。このような場合でも、少しでも互いに相手の立場へ配慮することによってスムーズな遺産分割につながる可能性があります。
5-3.無視しない、丁寧な態度を心がける
仲の悪い相続人や疎遠なためにコミュニケーションを取りにくい相続人がいても、無視してはなりません。無視すると遺産分割協議は進まなくなってしまいます。
また相手に連絡を入れるときには丁寧な態度を心がけましょう。
当初の印象が悪いとその後の関係が大きく悪化してしまい、遺産分割協議が決裂してしまうケースも少なくありません。
相手との関係がそもそも良くない場合や関係性が薄い場合ほどもめやすいことを意識して、慎重に対応しましょう。
5-4.調停を申し立てる
自分たちだけで話し合って解決するのに限界を感じたら、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てましょう。遺産分割調停を行うと、調停委員会がもめている当事者間を調整してくれるので、話がまとまりやすくなります。
調停も不成立になってしまった場合、審判に移行して審判官に遺産分割の方法を決定してもらえます。
もめてしまったときに放置していてもいつまで経っても遺産分割はできません。早めに遺産分割調停を利用しましょう。
なお遺産分割調停をせずに審判を申し立てることも可能ですが、そういった状況となると裁判官の判断で調停に付されるケースが大半です。よほどのことがない限り、まずは遺産分割調停から申し立てるのが良いでしょう。
【参考】遺産分割調停のポイント |
5-5.弁護士に依頼する
遺産分割協議でもめてしまった場合、弁護士に相談・依頼するようおすすめします。
正しい知識を持って遺産分割に対応できる
弁護士に相談すれば、法定相続分や遺産分割の方法、相続財産の評価方法などの正しい法的知識を得られます。相続人全員が正しい知識を共有すれば、遺産分割をまとめやすくなるでしょう。
代理交渉や遺産分割協議書の作成も依頼できる
もめている相続人や連絡を取りたくない相続人がいる場合、弁護士を代理人として相手との交渉もできます。弁護士が間に入ることによってもめごとが解決されるケースも少なくありません。
遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書の作成も依頼できます。
遺産分割調停や審判の代理も任せられる
弁護士を入れても相手と意見が合わない場合、遺産分割調停や審判を任せることも可能です。弁護士に調停や審判を任せると、自分で対応するより有利に運びやすくなるメリットがあります。
ストレスが軽減されるメリットも
弁護士にすべてを任せると依頼者は自分で相手と直接話をする必要がなくなります。もめている相手と関わらないで済むのでストレスも大きく軽減されるでしょう。
弁護士はトラブル解決の専門家です。遺産分割でもめごとが起こったら気軽に相続関係に詳しい弁護士に相談してみてください。
【参考】相続問題を弁護士に依頼すべき理由 |
5-6.遺言書を作成しておく
遺産分割に関するトラブルは被相続人の生前であれば予防できます。具体的には遺言書を作成しておきましょう。
遺言書があれば、基本的に遺言書の通りに遺産分割が行われます。
相続人が自分たちで遺産分割協議をして遺産を分け合う必要がありません。相続トラブルの多くは遺産分割協議におけるものなので、遺言書によって遺産分割協議を避けられるメリットは大きいといえるでしょう。
また遺言書に遺産目録をつけておけば、「他にも遺産がるあるはず」などと主張されて遺産の範囲でトラブルになるリスクも低減できます。
【参考】財産目録(遺産目録)の作り方 |
生前贈与を行った場合には遺言書で「特別受益の持ち戻し免除」をしておけば、特別受益の持戻計算をしないで遺産分割ができます。
遺言書を作成する際には公正証書遺言を利用しましょう。自筆証書遺言の場合、要式違反で無効になるケースがよくあるためです。公正証書遺言なら原本が公証役場で保管されるので、偽造や紛失などの問題も生じず安心です。
【参考】遺言の種類と特徴 |
遺留分には要注意
遺言書を作成する際には各相続人の「遺留分」に配慮すべきです。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求が行われてさらなるトラブルのもとになってしまう可能性があるからです。
遺留分のある相続人には最低限、遺留分侵害額に相当する遺産を与えておくようおすすめします。
【参考】遺留分の請求をされないために |
6.相続に関するお悩みは弁護士法人山本総合法律事務所へ
相続に関して悩みがある場合、解決に導いてくれるのは弁護士です。
困ったときには弁護士を頼ってください。
相談は相続に力を入れている弁護士に
ただどのような弁護士でも良いわけではありません。相続が不得意な弁護士に依頼してもスムーズに遺産分割を進めにくい可能性があります。相続に力を入れていて親身になって対応してくれる弁護士に対応を相談・依頼すべきです。
群馬県の山本総合法律事務所では遺産分割事件や遺言書作成などの相続案件に積極的に取り組んでいます。これまで群馬県で数多くの遺産分割事件を解決してきた実績もございます。「幸せな相続」「幸せな相続」をモットーとしており、単に瞬間的に相続問題を解決するだけではなく、なるべくご親族間の人間関係を壊さずに将来を見据えて解決する方法を模索します。
遺産相続に関してお悩みがある場合、弁護士が親身になって対応いたしますので、お気軽にご相談ください。