遺言の種類と特徴

1.概要

遺言公正証書を持つ男性

自筆証書遺言と公正証書遺言は遺言の作成方式による区別であり、どちらの方式で作成しても遺言としての効力に違いがあるということはありません。

 

「自筆証書遺言」は、遺言をする者が、遺言書の本文、日付及び氏名を自分で書き(自書)、押印することにより作成する方式の遺言です。

 

 これに対して、「公正証書遺言」は、遺言をする者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言で、作成にあたっては二人以上の証人の立会が必要となります。

 

 「公正証書遺言」の場合、遺言書の作成に公証人が関与し、遺言書の原本は公証役場に保管されますので、方式不備等の理由で遺言の効力が事後的に争いになったり、遺言書が滅失したり改ざんされる危険性が小さいと言えます。これに対して、「自筆証書遺言」の場合は、これらの危険性が大きいと言えます。

 

 一方、「公正証書遺言」の場合、遺言書の作成に公証人が関与することから、それなりに費用がかかりますし、作成にあたっては証人が立ち会うため、遺言書の存在及び内容が外部に明らかになってしまいますが、「自筆証書遺言」の場合、遺言書を作成したこと自体を秘密にしておくことも可能です。

2.自筆証書遺言のメリットとリスク

遺言書

【メリット】

自筆証書遺言には、自分一人で作成すればよく、費用がかからず、また、いつでも作成することができ、いつでも訂正することができる、というメリットがあります。さらに、証人などを用意しておく必要もありません。

 

【リスク】

しかし、一方で、専門家の助けを借りずに作成するため、内容に不備が含まれる危険性があります。そうすると、結局は相続人同士の争いが生じてしまう危険があります。

 

また、自筆証書遺言には厳格な方式が求められており、もしこれに不備があると、遺言が無効となる危険があります。

 

さらに、遺言の発見者が遺言を隠したり、捨てたり、改ざんしたりする危険があります。また、反対に、遺言が隠されるなどといった事態を防ぐため遺言の存在を隠しておくと、誰も遺言の存在に気付かない、気付いたときにはすでに遺産分割が終了していたなどといった場合も考えられます。

 

このように、自筆証書遺言は、手軽に作成することができるというメリットがありますが、一方で、後に争いとなったり、遺言自体が無効となったりする危険性もあるものです。

そこで、自筆証書遺言以外にも、公正証書遺言の作成も検討してみるとよいかもしれません。

3.遺言書が見つからない場合はどうなる?

自筆証書遺言を作成しても、結局は、遺言書を見つけなければなりません。

  たしかに、遺言書が破棄されたり、隠匿されても無効になるわけではありません。

仮にそれが判明した場合、相続欠格に該当し、相続権を失います

 

相続欠格についてはこちら

 

  遺言書の存在と内容が後日でも立証されればよいのですが、実務上、立証は容易ではないでしょう。

  コピーがあり、本物を見たという証人がいたりすれば遺言の存在したこと、およびその有効性を立証できる可能性があります。

 

  もっとも、その場合も、さらに、遺言者の意思による遺言の破棄(遺言の取消)がないことを立証する必要があるでしょう。

 

  これに対して、公正証書遺言の場合には、公証人が原本が保管されていますから、仮に正本や謄本をなくしても困りません。

 

     しかし、2020年の法改正により、現在では自筆証書遺言でも法務局の遺言保管所で保管できるようになり、検認の手続きも不必要になるため、この制度を活用すれば自筆証書遺言でも紛失のリスクなどは殆どなくなります。

4.公正証書遺言のメリットとリスク

公正証書

【意義】

  遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。公証人とは、公証人法に基づき、法務局又は地方法務局に所属して、公証人役場において関係人の嘱託により公正証書の作成や書類の認証等を行う人たちのことをいいます。

 

【メリット】

  メリットとしては以下のものが考えられます。

  1. ①内容的に適正な遺言ができる。
  2. ②遺言意思が確認できるから、無効などの主張がされる可能性が少ない。
  3. ③公証人が原本を保管するので、破棄・隠匿されるおそれがない。
  4. ④家庭裁判所の検認の手続が不要である。

 

【方式】

  公正証書による遺言は、

  1. ①公証人が証人2名以上を立ち会わせて
  2. ②遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口授し
  3. ③公証人が遺言者の口述を筆記し
  4. ④公証人が遺言者及び2名以上の証人に読み聞かせ(又は閲覧させ)
  5. ⑤遺言者・証人・公証人が署名押印して作成します(民法969条)

 

  口授とは、遺言の内容を遺言者が公証人に直接口頭で伝えることです。口がきけない者については、通訳人の通訳によるか、または自書することによって、口述に代えることができます(民法969条の2)。

 

  遺言者の口授は、遺言者が公証人に対して直接することを要します。言語を発してすることを要するため、公証人の発問に対して、単に身振りや動作で否定、肯定の意思を表示したにすぎないときは口授とは認められません(最判昭和51.1.16)。遺言者があらかじめ遺言内容を記載したメモを公証人に提出し、このとおりであると述べただけでは口授としては不十分と解されています。他方、メモを補充的に利用することは差し支えなく、遺贈物件の詳細な目録を覚え書きに示すなどして作成した公正証書遺言について、適式の口授があるとしたものがあります。

 

【リスク】

  公証人に遺言内容を知られてしまう

5.公証人の選び方

親子

前述したように公正証書遺言の作成の際には、二人以上の証人の立会いが必要となります。

誰を証人にするかですが、次のような条件に当てはまる人は、民法974条によって証人になることができないと決められています。

  • 未成年者
  • 推定相続人(遺言をする者が死亡したときに相続人になる者)、受遺者(遺言が効力を生じることにより相続財産を与えられる者)、これらの配偶者・直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

 

従って、少なくとも上記に該当する人を証人とすることは出来ません。

 

また、証人の役割は、遺言者が本人であること、遺言者が自らの意思に基づいて公証人に遺言内容を伝えたこと、公証人による筆記が正確であること等を確認することにありますから、これらの役割を果たすことができるような人を証人とするのが良いでしょう。

 

さらに、公正証書遺言の作成においては、証人の立会の下で、遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝えることになり、証人には遺言の内容を知られてしまうことになりますので、証人を誰にするかという点についても考えなくてはなりません。

6.秘密証書遺言のメリットとリスク

封筒と鍵

  遺言の存在自体は明らかにしておきながら、遺言の内容は秘密にしておこうとする場合に行われるのが秘密証書遺言です。

 

すなわち、この遺言は、遺言書そのものの方式ではなく、遺言書を秘密に保管するための方式ですから、書面自体には格別な方式はありません。ただ、遺言書に封を施し、遺言書がその中に封入されていることを公正証書手続で公証しておくだけということになります。

 

この方式は、検認手続を要する点は、自筆証書遺言と同じであり、公証人が関与するという点では、公正証書遺言と類似します。

 

【方式】

  以下の方式は、民法に規定されています。


  秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない(民法970条)

  • 遺言者が、遺言者自身または第三者の記載した遺言証書に署名押印する。 
  • 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章でこれを封印する
  • 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びに第三者によって書かれているときはその筆者の氏名及び住所を申述する
  • 公証人がその証書の提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人と共にこれに署名押印する。

 

なお、遺言者が、口がきけない者であるときには、上記の申述に代えて、公証人及び証人の前で、その証書が自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、または封紙に自書し、公証人がいずれかの方式によった旨を記載する(民972条)。

 

メリット・リスク

【メリット】

ア 自書能力がなくても遺言書を作成できる。

イ 遺言の存在を明らかにできるため、死後に遺言が発見されないことや隠匿・破棄される危険性が少ない。

ウ 遺言書の内容を秘密にしておくことが可能。

 

 【リスク】

ア 公証人が関与するため、手続が厳格で、証人2名が必要となる。

イ 公正証書遺言ほどではないが作成に費用がかかる。ウ 家庭裁判所の検認が必要となる(民法1004条)。

7.遺言を作成する際には専門家に相談を

弁護士

遺言は相続の際に一番トラブルになりやすい問題です。複数の遺書が作成されていたり、協議後に新しい遺書が発見されたりする場合もあります。また、自分で作成するのか、公正証書遺言を作成するのかについても悩むことがあるかと思います。

遺書は不備がないように正しく作成し、相続の際に自分の思いが反映されるように作成するべきです。そのためにも作成する際には弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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