遺言書で、特定の相続人やそれ以外の人に「すべての遺産を相続させる」と書かれていたら、指定された相続人やその他の人は法定相続にかかわらずすべての遺産を相続できます。
ただし他の相続人には「遺留分」が認められるので、指定された人が遺産を全部受け取ったとしても「遺留分侵害額請求」をされ、金銭の支払を求められる可能性があります。
もしも相続人から遺留分侵害額請求をされたらどう対応すれば良いのか、弁護士が解説します。
目次
1.遺留分が発生しているかどうかを見極める
遺留分請求をされたとしても、必ずしも相手にお金を払うべき義務があるとは限りません。相手に遺留分の請求権がない可能性も考えられるからです。
まずは本当に遺留分が発生しているのか、正確に判断しましょう。
1-1.遺留分が認められる法定相続人
遺留分が認められるのは以下の相続人です。
- 配偶者
- 子どもや孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
兄弟姉妹や甥姪には遺留分がありません。
また、相続人の欠格事由や廃除、相続放棄をした場合にも遺留分は認められません。
1-2.遺留分の対象
遺留分の対象になるのは以下のような行為です。
- 遺言
- 死因贈与
- 相続開始前1年以内の生前贈与
- 遺留分権利者を害すると知って行われた生前贈与
- 法定相続人に対する相続開始前10年以内の生前贈与
特に生前贈与の場合、あまりに古いものは遺留分の対象になりません。
たとえば請求者が「12年前の生前贈与について遺留分が発生している」などと主張しているなら、拒絶することができます(ただし2020年3月31日までの相続のケースでは、10年以上前の生前贈与で遺留分が発生する可能性があります)。
2.遺留分の時効が成立していないか見極める
遺留分には「時効」や「除斥期間」があり、一定期間が経過すると権利が失われます。
2-1.時効
遺留分には時効があり、権利者が「相続開始(被相続人の死亡)」と「遺留分侵害(遺言書の内容や贈与の事実)」の2つを知ってから1年以内に遺留分請求を行わねばなりません。
相手からの請求が相続開始後1年以上経過した時点で行われたなら、時効を主張して遺留分の支払を拒絶できる可能性があります。
2-2.除斥期間
遺留分は「相続開始後10年以内」に請求しなければなりません。10年が経過すると、たとえ遺留分権利者が相続開始や遺言書について知らなくても遺留分請求ができなくなります。
これを「除斥期間」といいます。
被相続人が死亡してから10年が経過した後で遺留分の請求をされても、すでに権利が消滅していることになります。
3.支払うべき遺留分侵害額の計算をする
相手に遺留分請求権があって時効の成立前に請求が行われた場合、遺留分の支払をしなければなりません。
無視していると調停や訴訟をされる可能性があるので、適切に対応しましょう。
ただ、相手の言い値をそのまま支払う必要はありません。遺留分侵害額には法的な「計算方法」があるので、適切な手順で計算をして必要な金額を支払えば足ります。
3-1.遺留分の計算方法
遺留分を計算する時は以下のような流れで行います。
相続開始時の遺産総額に贈与分を加算
相続開始時の遺産総額に、遺留分の対象となる贈与額を加算します。このとき、遺産や贈与財産の適切な評価をしなければなりません。評価基準時は「相続開始時」です。過去の贈与分については「贈与時の時価」ではなく「相続開始時の時価」を用いるので注意しましょう。
負債があればその分を減額
被相続人に負債がある場合には、その分を差し引きます。
遺留分割合をあてはめる
個々の遺留分請求者に認められる遺留分割合をかけ算します。すると最終的に相手に支払うべき遺留分侵害額が明らかになります。
3-2.計算の具体例
相続財産が2000万円、配偶者と2人の子ども(長男と次男)が相続するケース。長男へすべての遺産を相続させる遺言が遺されていたとしましょう。
配偶者の遺留分は4分の1、子どもの遺留分は8分の1ずつです。計算すると、次の通りとなります。
- 配偶者の遺留分は2000万円×4分の1=500万円
- 次男の遺留分は2000万円×8分の1=250万円
長男は配偶者(母親)に対して500万円、次男に対して250万円の遺留分侵害額を支払わねばなりません。
4.一括で支払えなければ分割払いを提案する
遺留分が発生して法的に返さなければならない義務があるとしても、すぐには支払えないケースがあります。
たとえば遺産の多くが不動産や車などの現金化しにくい財産の場合、遺留分権利者から金銭支払いを要求されても手元にまとまった資金がないかもしれません。また遺産が相続税の基礎控除を超えていたら相続税も払わないといけないので、現金が手元に残っていない可能性もあります。
遺留分侵害額については、一括で支払えなければ分割払いが可能です。当事者同士の合意で解決する場合、分割の期間や金額に制限はなく、相手が納得する限り長期分割も設定できます。
相手とよく話し合い、支払可能な方法を定めて和解しましょう。
5.調停や訴訟になる可能性について
遺留分について請求者と話し合いで解決できなければ、相手から裁判所で「遺留分侵害額を求める調停」や「遺留分侵害額請求訴訟」を起こされる可能性があります。
調停・訴訟への対応は法的知識が不可欠
調停や訴訟に自分1人で対応すると、不利になってしまうおそれが高まります。特に訴訟は話し合いではなく裁判所が遺留分侵害額を決定して支払い命令を下す手続きです。法的な知識をもって適切に対応しないと予想外に高額な支払を命じられる危険があります。
調停調書や判決書には強制執行力があるので、従わないと「強制執行」を受け財産を差し押さえられてしまうでしょう。
不利益を避けるため、調停や訴訟で遺留分の請求をされたら必ず弁護士に依頼してください。
6.遺言書作成時の注意点
もしもご長男などの遺産受取人(予定)が被相続人の存命中に遺言書作成の相談を受けたら、なるべく他の相続人の遺留分を侵害しない内容にしてもらいましょう。
どうしても遺留分を侵害する場合には、死亡保険金の受取人に指定してもらうなど、遺留分侵害額請求への対応策をとる必要があります。
7.遺留分の請求をされたら弁護士に相談を
遺留分請求を受けたときは、本当に遺留分が発生しているかどうかを見極める必要があります。
正当な請求であった場合には、支払うべき遺留分侵害額の計算を行い、適切な支払額をいつどのように支払うかを検討しなければなりません。
対応を誤ってしまうと不利益が生じる可能性もありますので、適切に対応するためにも当初から代理人弁護士を立てるべきです。
弁護士がいたら、相手に遺留分が認められるのか適切に判断できますし、遺留分の計算も正確に行えます。相手との交渉を弁護士に依頼すれば有利に進められますし、調停や訴訟になっても安心です。
当事務所では遺留分対策に積極的に取り組んでいますので、群馬で相続トラブルにお困りなら是非とも一度、ご相談ください。