相続財産には「名義変更」が必要なものがたくさんあります。たとえば不動産や車、株式やゴルフ会員権など「名義」のあるものは、すべて相続人へ名義変更すべきです。
名義変更をしなくても罰則はありませんが、誰の財産かわかりづらくなってトラブルの原因になってしまいます。
今回は「名義変更」の意味や放置するデメリット、手続きを進めるための手順・流れを解説します。
目次
1.名義変更とは
名義変更とは「財産や権利の名義」を被相続人から相続人へと移すことです。
死亡すると、その人はもはや財産や権利を所有できず相続人へと引き継がれます。ただ「名義」のある財産や権利については、名義変更をしない限りずっと「被相続人名義」のままです。
それでは対外的に誰が正しい所有者なのかがわかりません。せっかく相続しても財産の所有権を第三者に主張できなかったり、第三者が勝手に売却したりしてトラブルが発生するでしょう。そこで遺産を相続したら、できるだけ早めに名義変更をすべきです。
2.名義変更が必要な財産や権利
名義変更が必要な財産や権利には、以下のようなものがあります。
- 不動産
- 預貯金
- 車
- 保険
- 株式などの有価証券
- 投資信託
- ゴルフ会員権
- 賃貸人としての地位
現金や絵画、宝石などの動産類には「名義」がないので名義変更は不要です。
3.名義変更しないデメリット
遺産相続後、名義変更をせずに放置するとどのようなデメリットやリスクがあるのか、確認しましょう。
3-1.売却や活用ができない
財産は、基本的に名義変更しないと売却や賃貸などの活用ができません。たとえば不動産を相続して売却するためには、いったん相続人に名義変更してからでないと売れません。
賃貸に出すときや抵当権を設定するときにも、権利者である事実を示すため名義変更が必要です。
3-2.無権利者が勝手に売却するリスク
名義変更をせずに被相続人名義のまま放置していると、はた目には「誰が真実の権利者なのか」わかりません。無権利者が「私が相続人です」などと説明して勝手に他人に売却する可能性があり、購入者との間でトラブルになってしまうでしょう。
「不動産詐欺」に利用され、事件に巻き込まれてしまうリスクも発生します。
3-3.勝手に共有登記される
いつまでも被相続人名義のまま放置していると、他の相続人が勝手に「相続人全員の共有名義」に書き換えてしまう可能性があります。
それだけではなく、一部の相続人が「自分の共有持分」として不動産の権利の一部を他人に売却してしまう可能性もあります。そうなったら売却された持分の権利を買主に主張できず、財産が「買主との共有状態」となる可能性が高くなります。
3-4.誰のものかわからなくなる
特に不動産で多いのですが、長らく名義変更されずに財産が放置されると誰のものかわからなくなってしまいます。
相続人も死亡してさらに相続が起こると余計に所有者を特定しにくくなり、「所有者不明」の財産が出現します。役所も誰に固定資産税を課税すればよいのかわからなくなり、社会全体に迷惑をかけてしまうでしょう。実際、名義変更をせずに放置された土地や建物が増えて、社会問題にもなっています。
4.名義変更の流れ
財産を相続したら、きちんと名義変更しましょう。以下で相続後から名義変更するまでの流れをご説明します。
4-1.相続人の確定
まずは誰が相続人になるのか、確定しましょう。具体的には相続人調査を行ってケースごとの「法定相続人」を洗い出します。
被相続人の生まれてから死亡するまでのすべての戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)類を集め、内容を読み解いて漏れのないように調査しましょう。
4-2.相続財産調査
次に遺産の内容を調べます。どのような遺産があるかわからなければ遺産分割協議も進められないからです。家の中や貸金庫の中など、くまなくしっかり調べてみてください。タンスや棚の中に現金や証書を入れている方がたくさんいます。
また預貯金がある場合、金融機関に相続開始時の「残高証明書」の発行を依頼すると、死亡時の残高がはっきりわかります。一定期間の取引明細書も取得できます。
不動産の場合、自宅の権利証(登記識別情報通知)や売買契約書、測量図面、固定資産税の納税通知書を確認しましょう。同一市町村内にたくさんの不動産を所有されていた場合、役所で「名寄帳(固定資産課税台帳)」の開示を申請すると、その市町村内のすべての不動産の内容を確認できます。
株式なら証券会社へ問い合わせて取引内容を確認しましょう。
4-3.遺産分割
相続人と相続財産が確定したら、相続人が全員参加して遺産分割協議を行います。誰がどの財産を相続するのか話し合い、合意ができたら「遺産分割協議書」を作成しましょう。
もしも合意ができなければ、家庭裁判所で「遺産分割調停」を申し立てて調停内で話し合いを進めます。それでも合意できなければ、「遺産分割審判」となり、裁判所が遺産分割の方法を決定します。
4-4.名義変更
遺産分割が完了したら、各相続人が自分の相続した財産について名義変更をします。
遺産分割協議書を作成しても、相続人が自分で手続きしない限り、名義変更は行われないので早めに対応しましょう。
不動産の場合
不動産の名義変更は、土地や建物を管轄する「法務局」に申請して行います。
以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の生まれてから死亡するまでのすべての戸籍全部事項証明書類
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人の住民票
- 相続人の戸籍謄本
- 固定資産評価証明書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 遺産分割協議書(調停調書、審判書)
預貯金の場合
預貯金は、対象の金融機関にて名義変更をします。
以下のような書類が必要です。
- 名義変更依頼書
- 被相続人の出生時からなくなるまでのすべての戸籍の全部事項証明書類
- 相続人の戸籍謄本
- 通帳やキャッシュカード
- 遺産分割協議書
- 相続人の印鑑登録証明書
申請書式や必要書類は各金融機関によって異なるので、事前に問い合わせましょう。
車の場合
車の名義変更は、管轄の運輸支局にて行います。
以下のような書類が必要です。
- 自動車検査証
- 車庫証明書
- 被相続人の戸籍の全部事項証明書
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の印鑑登録証明書
- 遺産分割協議書
株式の場合
上場株式の名義変更は、取引している証券会社に申請して行います。ただし「相続人名義の証券口座」へ株式を移さねばならないので、まずは相続人名義の口座を用意しなければなりません。現在取引している口座がない場合には開設が必要です。
その上で証券会社へ申請して株式の名義を書き換えて相続人の証券口座へ移してもらったら手続きが完了します。
必要書類は以下のようなものとなります。
- 名義書換請求書
- 被相続人の出生時からなくなるまでのすべての戸籍の全部事項証明書類
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 遺産分割協議書
- 相続人の印鑑登録証明書
証券会社によっても異なる可能性があるので、問い合わせて対応を進めてください。
非上場会社の場合には株式発行会社へ直接連絡をして手続きをしましょう。
5.まとめ
遺産分割協議が終わった後は、各相続人が自身の相続財産について名義変更をする必要があります。
名義変更をせずに放置していると、さまざまなトラブルの要因になりますので、忘れずに手続きすることが重要です。